Shooting Star 11

 昨日の大和さんの一件以来皆はピリピリしている。当然と言えば当然だけれど、これまた当然の如く私に危機感なんていうものは存在しない。だって、いつだって頑張るのは主人公であってその他大勢の一人に含まれる私ではないのだから。
 道が決まってしまえば着いていくのは簡単だけれど、取得選択する人物からすれば大問題だろう。でも、きっと響希君ならば正しい道を選んでくれると、根拠の無い確信を持っているのもたしかだ。彼の選ぶ道が大和さんと相容れないだろうことは、端から見ていてもなんとなく分かる。
 大和さんが執着するほど、響希君は彼に感情を返していない。それが答えなのだと、何故他の人は気付けないのか。第三者視点で観察していればすぐにでも分かりそうなことなのに。
「全員が全員問題に関わってるから仕方ないのかな」
 完全なる部外者を気取っているのは私だけで、他の人達はなんらかの意思をもって今回の危機に立ち向かっている。残された時間も僅かな閉鎖された世界で、掬い上げられる意思はたった一つ。物語の主人公に選ばれた彼がどんな道を辿るのか興味はある。が、しかし。
「私には関係無い」
 タイムリミットが迫っているのはこちらも同じ。
 呼吸をする度混ざりゆく意思と意識は、元からそうであったと認識せざるを得ないような自然さで、私という存在を再構築していく。
 そうして出来上がった存在が選択出来るのはただ一つの答えだけ。
「琉依、こんな所にいたの」
「ヒビキ君? どうしたの?」
「どうしたじゃないよ、まったく。これから都庁行くから琉依も一緒に来るの」
「都庁?」
「そうそう、ミザール攻略の鍵を取りにね」
「ああ、ミザール」
 分裂する球体のようなセプテントリオン。数の暴力で物を言わせようなんてスマートじゃないと思ったのは数時間前の話だ。
「ふらふらするのもいいけど、敵が増殖してて危ないから琉依も自重してね」
「ん、分かった」
 都庁への道すがら響希君は今までの事を簡単に説明してくれた。なんでも都庁の下には巨大な方陣があって、それを管理している大和さんなら増殖し続けるミザールを倒す手段を知っているのではないかということ。
「へんてこな物質で世界が飽和状態になるのも面白くないよね」
「まぁ……そうだけど、琉依ってやっぱりちょっと変だよね」
「うっわ、変って酷い」
 軽口を叩きながら都庁の地下へと辿り着けば、そこには大和さんに詰め寄る響希君の仲間達が勢揃いしていた。
「ん……響希。フフ、さてはこの者たち、お前の差し金だな?」
「そうだよ」
「っはははは……! 正直でよろしい。君も駒を使うのが上手くなった」
 御満悦と笑いを響かす大和さんを見つめながら、皆の会話に耳を傾ける。
 都庁の方陣は龍脈の力を消耗することになり、現在守られている三都市の結界の消滅を意味するらしい。結界が消滅してしまえば無に飲まれる未来は確定だけれど、他に方法がない現状では選択肢はそれしかなくて。大和さんが言うには世界が完全に無に飲まれてしまう迄に、ポラリスに謁見し世界の再構築をすれば何の問題もないらしい。
 そりゃそうだ、新たな世界が構築されれば壊れ行く世界の事を気にすることはない。
 つまり、大切なのはタイムリミットを自分達で設ける覚悟があるかということ。
「全員落ち着け、話を戻そう」
「ああ、その通りだ。主義主張を語り合うなど無意味。信じる者に従えばいい。……いいか。都庁の方陣を使えば、無の浸食は急速に加速する。しかし方陣を使わなければ、ミザールは無限に増殖し続けて、今日にでも世界は滅びるだろう。さぁ決断しろ! ミザールを倒す事に反対の者はいるか!」
「決まりだな」
 響希君の一言で道が決定し、各々が行動を開始する。
「琉依、君はどうする」
「あ、すみません。お腹痛いので欠席で」
「は?」
「琉依何言ってん!?」
 大阪メンバーと富士火口へ向かうという響希君達に曖昧な笑みを浮かべ、大和さんへ絶対に行かないという意思を持ち視線を向ける。今回の発言で友好度が下がろうとも、人には絶対に引けないタイミングというものが存在するのだ。
「ごめん、ちょっと本当に無理なんだわ」
「琉依が言うなら、俺は信じるよ」
「うん、ありがと、ヒビキ君」
 眉根を寄せる大和さんを見ないようにしながら、呆れた視線を向けてくる響希君の仲間達へ両手を合わせゴメンの意思を伝え、これ以上何も言われない前に都庁地下を後にした。



「どうしよっかな」
「何が?」
 相変わらずのタイミングで現れた変態男の声を受けながら、荒れ果てた街で空を見上げる。
 遠くに見える球体は増えたミザールだろう。青い空に浮かぶ黒い物体が無の浸食を表しているようで気に食わない。響希君達が龍脈を使役する為に必要な工程を追えるのに、大した時間は掛かるまい。その間に身の振り方を考えなくてはと思うものの、現状に満足している状態から抜け出したくないという思いもある。
「分かってはいるんだけどね」
 私に用意されている答えは一つだけ。分かっているのに、他の可能性を模索したいと思ってしまうのは、人に与えられた「選ぶ」という特権のせいだろうか。
「ねーぇ琉依チャン。そろそろこっち向いてくれてもいいんじゃない?」
「そっちが私の視界に入ればいいでしょ」
「あ、入ってもいいんだ?」
「嫌よ」
「ですよねー」
 背後で喉を震わす男の声は神経を逆撫でする。フリーで居たいと申し出たのは私だけれど、何故この男と会話を繰り広げなくてはならないのか。そうだ、空気だ。私の回りには空気だけで変態などいなかった。
「あ、なんか酷い事考えてるでしょ」
「…………」
「うっわ、無視! 無視だわこれ、ボク傷付いちゃったなぁ」
 わざとらしい泣き真似に苛立ちを感じつつ、男の声がする方へと裏拳をお見舞いする。
「あぶなっ! 暴力ハンターイ!」
 案の定空を切った手を元に戻し、必要以上な青さで上空を支配する空に意識を戻す。
 星は、見えなかった。
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