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それはまだ私の両親が健在だった頃。
私は大都会の少しはずれ、それでも田舎町に比べれば都会なのだろうけど…、そんなところに住んでいた。
変に辺鄙な場所だったせいか、皆親が共働きで十分な愛を感じることなく多感な時期を過ごしてしまったせいか、私の住む街はいわゆる不良の溜まり場だった。
ところがある日から、その勢力図はがらりと変わることとなる。
一人の女性が台頭していた不良たちを一掃したのだ。
彼女は後に自治組織となる集団、レディースを形成しこの街で悪さをしようものなら彼女の鉄槌がくだるともっぱら噂され、恐れられた。
そしていばら姫と呼ばれた彼女はある日突然姿を消した。
私がその組織に入ったのは中学に上がった頃で、何かとこの容姿にいちゃもんをつけてくる輩が増えてきたからだ。その頃にはいばら姫の存在は最早伝説となり、組織のトップは彼女が当時もっとも信頼していた右腕にして後輩の女性だった。
そして組織に入って一年、高校卒業とともに上京することになった先代に私は次期リーダーを任された。
最初はもちろん断った。私よりも適任者ならいくらでもいるはずだったから。
けれど彼女はいつもの穏やかな笑みを浮かべながら
「これから、この組織はただのレディースではいられないわ。皆に必要とされる、皆に認められる組織でないといけない。知己に富み、守る強さを持つものでないと駄目なの。お願いよ。どうか、引き受けてちょうだいな」
と語った。
流石に頭を下げられては断れなくて、結局三代目に私はついた。
彼女の言葉通り、皆に認められ、必要とされるように街の清掃ボランティアやパトロールをして、人を困らせている不届きものがいれば懲らしめて。
ただ暴れるだけではきっと困るからと勉強会も開催した。
こうした努力が実を結んで、街の人たちは私たちをレディースから自治組織として見てくれるようになった。その矢先。
両親が事故で亡くなった。誰が悪いというわけでもない、どうしようもなく不慮の事故でしかなかった。
私は祖母に引き取られることとなり、後のことは信頼できる幹部連中に任せて街を後にした。
祖母は田舎の港町に住んでいた。とても穏やかな時間だった。それまで知らなかったいろんな事を教えてもらった。料理に裁縫、昔からの知恵。けれど、結局その時間も長続きしなかった。祖母は最後に故郷の海を見たかったと、静かに息を引き取った。
両親と祖母の残してくれた遺産のおかげで高校を卒業するだけのお金はあった。
両親と祖母の授けてくれた知恵のおかげで生活に困ることもなかった。
近所の人は皆優しく、私を実の子のように心配し見守ってくれた。
そして、帰宅途中海に落ちたあの日。
私は世界を渡った。

 

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