7.痛みを分かち合うこと
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翌日、様態も安定して面会謝絶が解かれたピカチュウさんを見舞いにいくと、冷たい眼差しに射抜かれた。
『お前、あの時の人間かっ』
随分な歓迎に辟易してしまう。
「こんにちは、具合はどうですか?」
『見たらわかるだろ…バカじゃないの』
「バカとは聞き捨てなりませんねぇ」
にっこりと告げると鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするピカチュウくん。
『ハッ…バカにバカって言って何が悪いのさ。それとも偽善者って言うべき?』
どうやらこのピカチュウくんも相当お口が悪いらしい。最近口の悪い子に縁があるのかしら。
「まあ、糾弾されても仕方ないかもしれませんね。偽善も独善も大差ないと昴にも言われましたし…まあそれは置いておいて、これから貴方はどうしたいですか?」
『どうしたい?決まってるじゃん。生まれた所に帰りたい!訳もわからないまま森で捕まえられて、知らない土地に連れてこられて、石投げられて、それで帰りたいと思わない方がおかしいだろ!?なあ…僕らはゲームの景品でも何でもない。生きてるんだ!』
力んだせいで体力を消耗したのか肩で息をするピカチュウくん。
昨日の昴の気持ちが少しわかった気がする。
「そう、ですね。それが当然の気持ちでしょうね」
『偽善の次は同情?ハッ、お優しいこった』
「同情、ではありません。私は貴方の痛みをしる事はないのだから」
『なら、何』
憎悪の眼差しも気にすることなく、静かに虚空を仰ぐ。
「強いて言うなら、羨望かしら」
ピカチュウくんを見やると、困惑していた。
「私はきっと、元いたところに帰れはしないでしょう。けれど、悲しくはないの。望郷の念すら抱かない…否、抱けない」
『なん、で…帰りたくないの?』
「特に、帰りたいとも思いません」
非道な人間ですねぇ、と自嘲してみる。
「すみません、長居しすぎたようですね。明日までは入院だそうですので、では」




 

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