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「ええっと、一応おめでとうというべきなのかな?」
困った様子で祝辞を述べられたものの、状況が状況だけにあまり嬉しくない。
「どうも…」
確かにヤキ入れや指詰めに比べればマシだけれど、そういう問題でもない気がする。
「じゃあ結鈴ちゃんのトレーナーカードを発行してもらわないといけないね」
ちょっと待ってて、と言い残して会議室を後にしたダイゴさん。
手持ち無沙汰になってしまった私はアブソルくんをブラッシングすることにした。
『お前はさ、ニックネームとかつけねぇの?』
「ニックネーム、ですか」
おう、と返事をするアブソルくん。聞けば種族名はあくまで種族名らしく、個人の通名はまた違ってくるのだそうだ。
「ふむ、そうですねぇ…蒼、蒼…」
ぶつぶつ呟きながらも決してブラシを止めることなく思考を巡らせる。
蒼…blue…青…碧……瑠璃…瑠璃色…瑠璃星…
「…昴」
『んあ?』
「昴なんてどうでしょう?」
確か瑠璃星は昴星の通名だった筈だ。
『おう、気に入った』
名前を考えついた頃にはアb…昴くんの毛並みは光り輝くレベルだった。
お茶でも淹れるかと席を立とうとしたとき、ダイゴさんが帰ってきた。
「やあ、待たせてごめんよ。これが結鈴ちゃんのトレーナーカードだ。それと君のポケナビにこっちはトレーナー祝い」
緑色をした保険証サイズのカードと黄色いトートバッグ、ポケナビは黄色…ではなく何故か橙色で。
「色々とありがとうございます」
深々と頭を下げると面を上げるよう言われる。
そっとダイゴさんを見上げると、チャンピオンの顔をしたダイゴさんと目が合う。
「きっとこれから、たくさんの事を経験するだろう。だけどどうか、忘れないで。君を大切に思っている存在があることを、君が傷つくことを厭う存在があることを」
さらり、と髪を撫でる手つきはひどく優しい。
「はい。…ダイゴさん、私はきっともう留まることをゆるされないでしょう。けれど、ほんの片時でも、貴方の家にお世話になって、家族ができたようで嬉しかったんです」
さっきよりもきつく抱きしめられたけど、昴くんは静観していた。
「どうか、君の旅路に幸多からんことを」




 

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