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困ったことに、どうやら奥の方まできてしまったようだ。
うっかり未知なる地に足をふみいれてしまったものの、ここまで一本道なのでどう頑張っても迷子にはならない…筈。
嗚呼、空が青いなぁ、なんて買い物袋片手にぼんやりしていたら横の茂みがガサガサと揺れて思わずビックリしてしまう。
放たれた殺気に気づけたのは過去の名残か、相手に隠す気がなかったからか。
咄嗟に地を蹴ると、今までいた所が見事にえぐれていた。
『ほう、避けたか。ぼさっとした見た目の割には中々筋がいいじゃねぇか』
聞こえた声は男性のもの。悪い組織かと臨戦態勢をとるも、現れたのはポケモンだった。
「ポケ…モン?」
初めて見るポケモンだ。白くてモサモサしている体毛に青い…いや、蒼い瞳。その瞳は瑠璃星のように輝き、警戒の色を帯びていた。どうやらさっき攻撃してきたのはこの子らしい。
『ポケモン以外に何がいるってんだ。コイツ阿呆なのか』
「阿呆とは聞き捨てなりませんね。失礼な」
むっとして言い返せば、鳩が豆鉄砲を食らったような表情になった。
『………は?え?何?言葉通じてる?いやいや無い無い』
「…大変お生憎ですが、ばっちり通じております」
………。沈黙のなか唯唯蒼い瞳とにらめっこをする。先に折れたのは向こうだった。
『お前は、トレーナーか』
「いいえ。違います」
腰をちらりと見て、少し警戒を解いたものの完全には疑いを捨てていない。
『オレの目を見て何も思わないのか』
「貴方の目を見ると石にでもなるんですか?」
『いや、ならねぇけど。って違ぇよ。そういう冗談いらねぇよ』
「とはいえ、私は貴方が何か存じ上げません」
『は?お前他地方の人間なの?』
まるでホウエンでは知らぬ人間はいないような物言いにこの子はそんなに有名な種族なのかと推測するも。
知らないものは知らないのである。
思い切ってがさりと草むらに飛び込めば、ちょうどマッスグマさんと鉢合わせた。
『うわっ、人間!?トレーナーかっ』
「どうもはじめまして。少々お尋ねしたいことがあるのですが」
『っは?質問?え、何コイツ。頭大丈夫?』
どうもこの辺りの草むらには口の悪い子が多く生息しているようだ。ここで怒るのは、そう。短気は損気だ。
「彼の種族は何ですか?」
わさり、と草むらをかき分けて白い体躯を見せると、途端にマッスグマちゃん(声的に女性だった)は警戒した。
『アンタ、アブソルも知らないのかい?しかもコイツの近くにいるとハンターとかで喧しいんだよ。チッ、やなモン見ちまった!』
諸々つっこみたい所はあったのだが、彼女はアブソルくんを見やると踵を返して走り去ってしまった。
『チッ、不吉で悪かったな』
「嗚呼…、結局種族名しかわからなかった…」
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