抱き枕




もそもそ。

自分の傍で何かが動いたのを感じ、リオンは目を覚ました。
感じるのはひんやりと冷たい空気。目の前に映るのは黒い髪。それは己の腕の中に収まっていて―――、


ガツッ

「痛っ!?」


思わず突き飛ばしてしまった。
突き飛ばされた人物は壁に頭をぶつけたらしく、呻きながら押さえている。


「リオン酷いっ」
「黙れ!何をしているんだ、お前は!」
「寝てただけじゃない!」


ルナは喚きながらリオンを睨む。一方のリオンは顔を赤くさせていた。
ルナの言う通り、彼女は寝ていただけでリオンに特に危害を加えてはいなかった。なのに何故突き飛ばされたのか、


「一人で寝ろ!」


リオンの布団の中で寝ていたからである。
一緒に寝た覚えが無く、起き抜けに異性と体が密着していれば誰だって驚くだろう。
ルナは眠い目を擦りながら再びリオンの元に這い寄った。


「寒い…」
「…は?」


確かに肌を突き刺すような冷気に体が震える。
そういえば昨日、アンジュが霊峰アブソールに行くとかなんとか言っていたのを思い出した。
それとルナが寒さには人一倍弱いって事も。


「だからリオンとくっつく。リオンあったかい」
「お、おい!待てっ、ルナ!」


言葉の通り抱き付いてきたルナを支えつつもリオンはこの状況を打破する為に寝起きの頭を回転させる。


「ルーティはどうした!」
「朝御飯の当番だって」
「だったら、フィリアやチェルシー…!」
「廊下すっごく寒い。出たくない」
「っ、スタンに」
「私、リオン以外の男の人に近付けれないんだよ?」


ルーティがいなくなった。

一人じゃ寒い。

部屋から出たくない。

リオン。

安直な考えに体の機能が停止したかのように動かなくなってしまった。
リオンが動かないのをいい事にルナはリオンの背中に腕を回し、更に体を密着させる。


「それにリオン、ルーティより少し大きいからもっとあったかいし。ねぇ、さっきみたいにぎゅってしてよ」
「っ!」


なんて事を言うんだ、この女は。いくら幼馴染みと言えど警戒心が無さすぎる。
人の気も知らないで、と思いながらとりあえず引っ剥がそうと肩に手を置いた時、


「失礼しまーす。兄を起こしに来まし…た……」


まるで謀ったかのように部屋に入ってきたスタンの妹、リリス。彼女の視界には布団の上で抱き締め合ってる少年少女の姿が映った。
気まずい雰囲気の中、リリスは顔をほんのり赤らめ、


「お、お邪魔…しました。あ…、兄は連れて行きますでどうぞごゆっくり…」


ずるずると兄であるスタンを引き摺りながら部屋を後にした。

絶対誤解された。

すやすやとリオンの胸元で安らかに眠るルナと硬直したままのリオン。
ルーティがやってきてリオンの頭を叩くまで暫くその状態だったんだそうな。

















リオンと一緒に寝たかったんだ。



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