忍びの定め




「ねぇすず、笑って?」


突如言われた言葉にすずは少し目を見開いて驚いた様子を見せた。
しかし、それも束の間。ハッと気付きすぐいつもの無表情に戻る。


「笑う…ですか」
「うん。すずは笑うと可愛いと思うの」
「ありがとうございます。しかし私は笑う事など出来ません、しません。忍者ですから」
「なんで忍者は笑っちゃいけないの?」
「忍者は非情でなければ務まりませんから」


淡々と答えるすずにルナの眉が下がる。
困ったように薄く笑みを浮かべるその表情にすずは違和感を感じた。


「すずは何歳だっけ」
「今年で11になりました」
「そっか。なら尚更笑ったり泣いたり怒ったりしたらいいと思うの」
「そう言う訳にはいきません」
「ねぇすず。今は忍びの里にいるんじゃないよ?外なんだよ、外。外の世界でぐらい感情を殺す必要ないよ」


しつこいくらい言われてもすずの心には響かない。それはルナにも感じ取れた。
にっこり笑いかけてみてもすずは眉一つ動かさない。


「じゃあねすず、一つだけいいかな」
「なんでしょう」

「感情がなくなってしまったら利用されるだけなんだよ」

「…!」


ぞくりとすずは悪寒を感じた。
目の前にはいつもとなんら変わりのないルナな筈なのに得体の知れない何かと対面している感じがしたのだ。


「ルナさん…?」
「ん?」
「…いえ、なんでもありません。ご忠告ありがとうございます」
「いつかすずが楽しそうに笑った姿見たいな」


それはルナの純粋な願いであった。
笑い、哀しみ、怒り。たった11年しか生きていない少女がそれらの感情を一切絶っている。それはきっとこれからも。
ルナは悲しみに似た気持ちを抱いたがすずには伝わらない。仮に伝わったとしてもなんら変わりはないだろう。






「リオン、リオン…」


部屋に戻り、リオンの姿を確認したルナは消え入るような声で彼の名を呼びながら歩み寄る。
縋り付くように抱き着いたルナをリオンは驚く事も動揺する事もなくただ受け入れた。


「リオン、私……」


服を握り締めているルナの手が震えている。
その手に己の手を重ね、体にくっついている頭を優しく撫でる。
そうして安心させようとしてもこの時の彼女は中々簡単にそうはいかない。
たまに訪れる情緒不安定なルナ。最初こそは戸惑ったが回数を重ねる毎に対処法を学んだ。
対処法とは言っても先にも言った通り対処しようがないのだが、このやり取りが一番マシなのだと気付いたのが2年程前。


「(最近ないと思っていたのに…)」


そう、リオンが思っている通りここ1年くらいはルナが情緒不安定になる事がなかった。
ルナはうわ言のように小さく呟く。


「リオン、私怖いの…。私また……。―――……」

















あれ、暗い。



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