貴方の為に3




「どー見ても美味しそうじゃない…」


ユーリに言われる(脅される)まま自作のプリンを持って自室に戻ったルナはそれを怪訝そうな顔で見つめる。
ここ最近妙に疲れて帰ってくるリオンの為に作ったプリン。こうも見た目が悪いと嫌がらせになるのではないか。
あげるかあげないかの答えがまだ出ておらず、睨み付けながら唸り続ける。


「こんなのリオン食べてくれないよ…」
「僕がどうした?」
「へぁゎ!?」


一人きりだと思って溢した独り言に返された声にルナは大袈裟な程驚き飛び跳ねた。
それも全く関係ない人物などではなく今まで頭を占めていたリオン本人に声掛けられたのだから尚更である。
何の事かわからず只単に声を掛けただけなのに異常に反応されたリオンも驚きで目を丸くした後、不愉快そうに顔を顰める。


「…なんだ」
「え、えっと……、あはは…。おかえり、リオン」


ルナは笑って誤魔化しながら失敗作のプリンを己の体で隠す。勿論それを見逃すリオンではない。


「何を隠した」
「べっ、別に何も…」
「そうか。見るも無惨な、食べ物なのかどうかもわからない物体が見えた気がしたが気の所為か」
「……意地悪」


知ってて聞いてきたリオンに眉を寄せたルナ。それでも恥なのか意地なのか失敗作プリンを晒す事はしなかった。
それを良く思わないリオンは更に問い詰める。


「なんなんだ、それは」
「…言わない」
「食えるのか」
「食べられるもん。てか、私が食べるからリオン関係ないもん」


むす、と膨れながら拗ねたルナはリオンの為に作ったプリンなのに勢いに任せて自分で食べる発言をしてしまった。
失敗したとはいえ自作のプリンをこうも貶されると彼の為に作った事を明かす事や渡す気が失せてしまったのである。
発言してしまった以上、それを撤回するのは難しいもので、ルナはプリンを一口分掬い口の中へ運んで行く。


「(味…しない)」


ユーリの前で食べた時はちゃんと甘い味があった筈なのにそれを感じられない。
一方、何も知らないリオンは拗ねてしまった彼女の相手する気が失せ、ソファに腕と足を組みながら座り、目を軽く閉じる。


「(リオン…、やっぱり疲れている…)」


言葉には出していないが、よくよく見れば彼が疲弊している事が窺える。目の下に薄く出来ているクマや少しでも休めようと目を閉じている様子を見るとルナは自分はなんとも言えない気持ちに支配される。


「(リオンはいつも私を助けてくれるのに…。私がして欲しい事を言わなくてもしてくれるのに…。私は満足にリオンの事喜ばせられないのかな…)」


出会った時から今まで守ってくれたり喜ばせてくれたり、最近では少し叱ってくれるようになって最早兄代わりと言っても過言ではない存在となったリオンを喜ばせたかった。
だから妙に疲れている彼を見、それをきっかけに何かしてあげたかったのに満足出来る物は出来なくて。
いつだって自分は彼ほど完璧に器用に物事を実行するのが出来なかった。男性に対しても戦いも勉学も料理ですら。
弱いからいつも守ってもらって足手まといになってしまっている。


「(…泣きそう)」


考えが悪い方向に行ってしまい、目頭が熱くなってきたのを感じたルナは堪える為に目をキツく閉じる。
今ここで泣いてしまえば優しいリオンの事だから絶対放っておく事はされない筈。昔から泣けば彼は色んな方法を使って慰めてくれていた。
またリオンに甘えてしまうのか、いい加減一人立ちしなければいけない、その想いがルナの中で複雑に渦巻き流れ出そうになっている涙を寸でのところで止めている。


「(泣いちゃ…ダメ。泣かないで、泣かないで。リオンにこれ以上……)」


迷惑かけたくない。
その言葉が浮かんでくる前に頭の上に乗った温かい物によって思考が中断してしまった。
キツく閉じていた目を開け、俯いたまま顔を横に向ければ見知った衣装が目に入った。


「…どうした」


耳に心地好く響いた声に頭の上に乗っているのはリオンの手である事が理解出来たルナ。
泣くのを必死に堪えてたおかけで涙を流していないのに何故わかってしまうのかと不思議に思いながらも、一先ず彼の言葉に反応して首を横に振った。
言葉にして意思表示しようと口を開けた途端、涙腺が緩み唇が震えているのを感じて再び閉じる。


「さっき…僕が言った事か?」


話せないのだが、それを話したくないのだと勘違いしたリオンは一向に口を開かないルナに問い掛ける。
ほんの少し芽生えた悪戯心、彼女の反応見たさについいつものように意地悪い言葉を吐いてしまった事を今更ながら後悔し始めている。
傷付けるつもりなんて毛頭無かった。しかし、今にも泣きそうなルナに内心穏やかでいられない。


「っ…」


ふるふると最初に頭振った時より強く横に振ってリオンの言葉を否定したルナに彼は少し心が救われた。
しかし、何故彼女は泣きそうになって我慢しているのか、それを聞いていいのかどうかもリオンにはわからなかった。

長い時間共に過ごしてきた。それはかけがえのない時間。二人にとって大切な時間。
お互いがお互いの性格や良い所悪い所、何が得意で何が苦手なのか、好きな食べ物や趣味、その他諸々良く知っている筈なのに肝心な気持ちまでは知り得ない。


「………」


だけど一つだけ言えるのは悲しい気持ちにはしたくない、なってほしくない。
昔から彼女の涙は苦手だ。

泣かないで。

少し躊躇いつつもリオンは腕を伸ばし、未だ俯いて顔を見れないルナを引き寄せその小さな体を抱き締める。
体同士が密着した途端彼女の体が小さく揺れたが拒絶はされなかった。
久しぶりに己から抱き締めた。昔はなんの躊躇いもなく手を繋いだり抱き締めたり出来たのに、今では色々な気持ちが邪魔してしたくても出来なくなっていた。

いつも隣にいて彼女から抱き付いてくる事もあった為、体格差があるのはわかっていたのに、こうして腕の中に収めると改めて彼女が自分より遥かに小さいのだと認識する。
このまま力を込めてしまえば簡単に折れそうな儚さを持っているような錯覚も覚えてしまう。


「……、リ…オ……」


消え入りそうな声で名を呼ばれ、おずおずと背中に回ってきた手がマントを握り締めるのに対しリオンは堪らず少しだけ抱き締める力を強める。
震える体を押さえ込み、後頭部に回した手で安心させるかのように撫でる。

幼い時からある程度体格差はあったが、今は更に差がついたどころか別の違いも出てきている。
思っていた以上に肩が細く、だが肉付きは女性特有の物。自分の硬い体と密着しているとその柔らかさが余計に強調されていると不謹慎ながらも感じてしまう。

泣き止むどころか小さく聞こえてくる嗚咽にリオンはやるせない気持ちになりながらも変わらず抱き締め続けた。

















これでも明るく幸せなのを書きたかった。



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