貴方の為に2




色々な人物がやってきては談笑しているうちに二時間経過し、冷蔵庫の中にあるプリンも冷えている頃。
ユーリがトレーごとプリンの器を取り出し、ルナが作った分を彼女に渡す。


「上手く出来てるといいな〜」


楊枝を器とプリンの間に差し込んでぐるっと一周させながら鼻唄混じりで言うルナ。
それを横目にユーリもルナと同じようにして皿の上に出てきたプリンを眺める。
我ながら良い出来栄えと感心してからルナが作ったカラメルソースを手に取ろうとしたところで気付いた。
ルナが今にも泣きそうな様子で皿の上に乗っている物体を見ている事に。
ルナの目の前にはぐちゃぁと崩れている、恐らくプリンであろう代物が。とても美味しそうには見えなかった。


「失敗…か?」


何気なく呟いたユーリの言葉に反応したのか、ルナの目にどんどん涙が溜まっていく。
そしてユーリの手元にある綺麗な形をしたプリンを見るなり遂に泣き出してしまった。


「お、おい、ルナ…」
「うっ…うぅ……し、失敗…」


流れ落ちてくる涙を手で拭うが、それで落ち着く訳もなく寧ろ勢いが増している。
男はいくつになっても女の涙には弱いもので、ユーリも例に漏れず彼らしくもなく目の前で泣きじゃくる少女にあたふたしている。
更に自分が失敗という言葉を漏らしたのをきっかけに泣き出してしまった為、余計にバツが悪かった。


「ゆっ、ユーリと同じようにし、たのに、全然出来てな、ひっく」
「初めてだったんだろ、なら仕方ないって。寧ろ初めてにしては上出来じゃねーの?」
「でもでも…!クリームだってユーリみたいに上手くで、出来なかったしっ、ぅ、っく…、こんなの不味そう…!」
「んなの食べてみないとわかんないだろ?…ほれ」


ユーリはスプーンを手に持ち、ルナが作った見栄えが悪いプリンを一掬いすると彼女の口元に持って行く。
未だ泣き続けているルナだが、口元に持ってこられた物に反応して口を小さく開く。開けられた口にユーリはスプーンを突っ込み、上に乗せてたプリンを落とし引き抜いた。
ごくん、と喉を鳴らして飲み込んだルナは少し落ち着きを取り戻した。


「……なんかぶつぶつする」
「最初は皆そうさ。それより味はどうなんだ?」
「…美味しい、と思うけど」


ルナの答にユーリは満足気に微笑み、なら大丈夫だとルナの頭をポンポンと撫でる。
またしても触れられたが、それどころじゃないルナは目の前にある自作のプリンを睨んではまた泣きそうな表情になる。


「おいおい…」


折角泣き止んだかと思ったのにこれじゃぁキリが無い。
なんとか話題で興味を引こうとする。


「そういえば、何で今回は作るだったんだ?いつもは俺に頼んでたのに」
「……リオン」


リオン?現在この場どころか自国の仕事だとかなんかで船にいない彼の名が出た事にユーリは疑問に思った。


「リオン、最近お仕事忙しいみたい。私も行くって言ってるのに毎日置いていかれて結局疲れて帰ってきて…。足手まといになるから置いていくのかもしれないけどせめて何かしてあげたくて、リオンが大好きなプリン作ってあげたいなと思った…んだけど……」


じわ、と目に涙が浮かんだのを見たユーリは振る話題間違えたとか思いながらこの後どうしようかと思考を巡らせていた。


「…ユーリのプリン、リオンもお気に入りだったし……」
「ルナ?」
「ユーリ、それ頂戴」


何やらぶつぶつ呟いたかと思えば唐突にユーリが作った出来栄えの良いプリンを強請ってきたルナ。


「いやいや、ルナが作った奴あげたらいいじゃねーか」
「だってこんなの、リオン食べない…」
「…男ってのは案外単純なんだぜ、ルナ」
「ユーリ?」
「好き……、自分の為に作ってくれたものならなんだって嬉しいもんさ」


危うく好きな奴という単語が出てしまいそうになったが、なんとか誤魔化してルナを諭すユーリ。
ルナはユーリの言葉を本当かなと半信半疑で聞いていた。


「…確かに例外ならいるが。どうしようも無い味音痴が作った奴とかな」
「あー……、フレン…」
「けど、アイツだって悪気あって作ってる訳じゃないし、嬉しいっちゃ嬉しいんだ。まぁでも、ルナのは見た目がアレなだけで味はしっかり美味しいしな」


パク、とルナのプリンを一口口に含めるユーリ。
ん、美味い。の一言に涙を浮かべたまま微笑むルナ。しかし、未だ不安そうな表情が消えていない。


「それでもユーリには劣ると思うの。やっぱりちゃんとしたプリンの方がリオンも喜ぶと思う。だからちょーだい」
「まだ言うか。大体、俺はこれ全部一人で食べようかと……あれ」
「どうしたの…ってあれ?ユーリのプリンなくなって…」

「美味いなしかし、美味いな〜」


トレーに乗せたままのプリンが器ごと消えて無くなっていた事に気付いた二人。
直後聞こえてきた特徴のある口調にまさかと思い声がした方を向く。
そこにはスプーン片手にプリンを食している猿…コーダがいた。彼の周りには空の容器が転がっている。


「おいちょっと待て…。まさか、ここにあったもの全部…」
「んまいな〜。おいユーリ、それも寄越すんだなしかし」
「まだ食う気かよ!これまでやったら俺の分が無くなるじゃねーか!」
「ユーリはそっちの不味そうなのでも食ってるんだなしかし」
「不味そう…。やっぱ動物でも不味そうに見えるんだね…」
「コーダ!」


ルナ作のプリンを指しながらはっきりと不味そうと言ったのに対しユーリはコーダの首根っこを掴む。


「何するんだしかし!離すんだなしかし!」
「ったく…。そんなに食いたけりゃ飼い主に餌強請れ」
「しかし〜!」


ポイ、と食堂の外に放り投げたユーリはコーダの言葉に再び落ち込み始めたルナに歩み寄る。
自分の分を食われて腹立っていたが、ルナが欲していた己のプリンがなくなった事にほくそ笑む。


「なくなっちまったな、俺のプリン」
「あ…」
「もう一回作れなんてそんな面倒くせー事言わないよな?ルナ」
「うぅ…」


どうする?と楽しそうに聞いてくるユーリに言葉をなくしたルナはそのまま考え込む。
自分自身が食べるのも手だが一人で食べるには量が多い。スタンやルーティにやれば食べてくれるかもしれないが、こんな出来の悪い物を見せたく無い思いもある。
そこでルナが出した結論は。


「ユーリ、食べて」


そう来たか、さてどう答えようかと思考を巡らす。
ルナは天然、リオンは恋愛下手。年頃の男女が同じ部屋で衣食住を共に過ごしているのに、てんで進展が見られないのはユーリ筆頭に船内にいるほとんどの人物が焦れったく思っていた。
何かしらのきっかけで進展でもあればと常日頃から思っている人物としては今回の事もチャンスだと思っている。
ほんの些細な事でも変化が見られるならと多少強引でもなんとか押し進めたい物だ。


「俺はいいよ」
「でもさっきコーダに食べられてたじゃない」
「そこまで執着してる訳じゃないしな。グミでも食べとくわ」
「…やっぱり私のプリンは食べられないって事?」
「俺の為に作ったって訳じゃないからな。ほら、いいから持っていけ。さもないと、」
「ひぃ…!」


ずい、と前触れもなく近付かれ一気に距離が縮んだのに対し過敏に反応したルナは大袈裟なほど後退る。
少々強引というか脅迫混じりになってしまっているのはユーリ本人も気付いてはいるがこれも二人の仲の進展の為。
やけに楽しそうなユーリの顔を見たルナはぶつぶつ文句言いながら自作のプリンを持って食堂を後にしたのだった。

















強引に締めたのは私です。←



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