俺様三成様


「女」

「はっ、はいっ!」


私が呼べば、作業をしていた手を止め怯える様に…いや、怯えた様子で立ち上がる。


「な、何か御用でしょうか…?」

「…何をしていた?」

「え…あ、大谷様の包帯を洗っておりました。
いつも同じ物と言うのは良くないと思いまして…」


この女は私に怯えているくせに、ここへ来た時から変わらない強い目で私を見る。

思えば、出会った時から私はこの女が気に食わない。


「刑部に何かしたり不快な思いをさせたら、容赦無く斬り捨てるからな」

「はい…」


特にその怯えと一瞬の悲しみを宿した目が気に食わない。


何故だ、何故私には刑部や半兵衛様に向けるような目を向けない。

何故私には…


「やれ三成、あまり静穂を虐めやるな」

「っ、刑部!」

「静穂、われは少し休憩がしたい」

「はい、お茶をお持ちします!」

「すまぬナァ、三成も飲むか?静穂のお茶は美味よ、ビミ」

「いらん、私は忙しい」


女の戸惑う気配がしたがそのまま背を向け立ち去れば、刑部のヒヒッという刑部特有の笑い声が聞こえた。


「何故だ」


あの女は、小田原へ視察に行かれた半兵衛様が刑部付きの女中にと連れ帰った。

城門にて出迎えた先で初めて会った筈がその女の存在が何故か懐かしく感じ、確かめる為に腕を掴めば途端に怯えた目に苛立った。


当然、猛反発した。

こんな素性も知らない苛立つ女に刑部を任せられないし、何故かこの女だけはダメだと思った。


しかし半兵衛様は彼女は大丈夫だと仰り、刑部もそれを受け入れ奴の入れた茶を毒味もせず何の躊躇いも無く飲み干す。


「(何故だ、何故…)」


あの女を見ると苛立ちと、夢での男がチラつく…?









「ぬしは前の世の記憶が有るか?」

「え?」


お茶と茶菓子をお盆に持ち、大谷様の部屋へ戻ればそんな事を聞かれた。

正直私…いや、僕は1番最初と仁王雅治の記憶を持っているし、大谷様が何を考えているか分からないからどう答えれば良いのやら…


「ヒヒッ、ぬしは分からぬが、奴…三成には有るのよ、前の世の記憶が」


不思議よのぅと笑う大谷様の言葉が一瞬理解が出来なかった。

そんな僕の様子を楽しむかの笑い声の後、大谷様は話を続ける。


「奴は幼少の頃から夢を見ると言うてナァ
夢に出て来る男の話をそれはそれは楽しそうに話しおったが、ある時その男が自害したと言う」

「それは…」


もしかすると


「まだ続きがある故、聞いておれ」

「はい…」


大谷様の話の続きは僕の予想通りの話で…

僕は確信したんだ。こんなにも早くに会えるとは思わなかったけれど。


「静穂、われの代わりにぬしが三成の様子を見てきてはくれぬか」

「三成様の…」

「そろそろ倒れる頃だとは思うが如何せん今日は忙しくてナァ
ぬしには酷であろうが頼めぬか」

「はい、凄く怖いけれど頑張ります」

「ヒ…ヒヒッ 素直なぬしは好いておるぞ」

「いってきます」

「頼んだぞ」


食べ終えた茶菓子の皿とお盆を持って部屋を出る。


まったく、倒れるぐらいならちゃんと体調管理をすれば良いのに…

半兵衛様が言ってた三成様の困る事ってこれかな?なんて迷惑な

ああ、でも人って現金なもんだな…


三成様が貴女だってわかってから、足が軽い。



マァ、不思議よフシギ

われが三成の気に入るモノを気に入るとは…


「ヒーヒッヒ…」


さあどうする?三成?









静穂が自室で倒れる三成を見付けたのは、大谷の部屋を出てから5分も経たない内だった。


「死んだように寝てるよ…」


普段の三成ならば近付くだけで斬りかかって来そうなものだが、今は寧ろ息をしているのかを疑う程に眠っている。


「(さて、どうしたものか…)」


戻って大谷に倒れて居たと伝えれば良いが、このまま放置と考えると季節柄風邪を引いてしまうかもしれない。


現代なら未だしもここは戦国。

風邪一つで命を落とす事になりかねないため、何としても避けなければならない。


「うーわ軽っ!」


爆睡した大型犬の方が重いってこれ!!

ズルズルと布団の方へ引きずって行けば、静穂に付いている忍びがすかさず布団を敷き三成を寝かせた。


「ありがとうございます、蔦さん」

「おきになさらず」


静穂に付いてから“人”らしくなったと言われる笑みを浮かべ蔦は去って行った。

彼女は彼女で、静穂や三成の何かを感じ取っているのかもしれないと静穂は考えて居るが、それは本人にしか分からない。


「(お腹減ったし、早く大谷様の所に戻って金平糖かお煎餅貰おう。うん、そうしよ…)

っ?!!!」


最後に三成の顔色を見て立ち上がろうとすれば、腕を強い力で引かれそのまま三成の上へと崩れ落ちた。


「(え、ちょっ、起きた?!!ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ絶対記憶戻ってないから!!絶対まだ石田様だから殺される!!斬滅されるうううう!!!)」


この世界へ来た時以上の恐怖に襲われる静穂は何とか三成の腕から抜け出そうとするが抜け出せず、必死に(だが三成を起こさぬ様に)顔見知りや名も知らぬ忍びを呼び続けた。


「(ちょっ、来ない!?誰も来ない?!)」


オ ワ タ \(^p^)/


ああそう言えば、石田様は部屋で休む時は忍びも全て払うって半兵衛様が言ってたっけなぁ…

等と思い出しながら人生最後のことばを纏めていた時、頭の上から三成の声でその名前が呼ばれた。


「潤斗…」

「っ!!」


その一言が引き金になったとかの様に、三成からは次から次へと言葉と涙が溢れてくる。


「潤斗…嫌だ…置いていかないでくれ…潤斗……潤斗…!」

「……………」

「嫌だ…嫌だ……潤斗、傍に…」


腰に巻かれた腕から逃れそうとすれば、更に力が強くなり嫌だと連語する。

そんな姿に、彼女にここまでのトラウマを植え付けてしまった自分が情けなくて涙が出て来る…


「大丈夫、ちゃんと傍に居るよ…」


何とか三成の頭まで運べた腕で三成の頭を撫でながら、静穂は出来るだけ優しい声で囁く。


「貴女が気付かなくても傍にちゃんと居ます。

大丈夫、今の貴女にはちゃんと見てくれている君主や理解してくれる友も、慕ってくれる部下もいる。しかも聞けば正室まで居るそうじゃないですか!
心配しなくても、貴女の傍には人が沢山います。だから…」

「だから、夢の事は忘れろってか」

「…へ?」


静穂を抱えたまま起き上がった三成の顔は不機嫌そのもので、視線で殺せるのならば人一人は確実に死んでいるであろう目で静穂を見る。


「巫山戯るな!!私がどれだけあの夢に苦しめられたと思っている!!そんな簡単に斬り捨てられるならとっくにやっている!!」


あまりの気迫に呆然とする静穂に、三成はただただ縋り付く。


「もう俺を、一人にしないでくれ…」


消え入りそうな声で呟く邑の頬は涙が次々と流れていて、「おかえり」と微笑み抱きしめ返す潤斗の頬も涙で濡れていた。






おかえり、私 の愛おしい人


(所で、何故戦国にいる)
(腰と腕細過ぎない?)
(………)
(………)
((そこに正座しろぉ!!/しなさい!!))

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