俺様三成様2
「潤斗、今暇か?」
「…どう見ても暇じゃないよね?」
とある晴れた日の朝餉後、大谷様の着物や包帯を誰も居ない中庭で洗っていれば、フル装備の邑が来た。
何処かに出掛けるんだろうか?
「じゃあ、洗濯を終わらせたら出掛ける準備をして俺の部屋へ来い。出掛ける」
「着物は…この前買ってもらったやつ?」
「ああ、それで構わない。
…早く終わらせろ、私の手を煩わせるな」
「…はい、三成様」
フンッと言う様に踵を返して戻って行く邑…三成様に一礼した時、初めに色々と教えてくれた先輩女中さんが来るのが見えた。
頼んでいた裁縫道具を持って来てくれたのだろうか?
「ここ置いとくから」
「はい、ありがとうございます!」
「………」
スッゴイ睨まれました。
ハイ、嫌悪感丸出しで……超怖い
大谷様の病は業病って呼ばれていて、皆うつると言って気味悪がって、自からこの離れに近付こうとしない。
大谷様のお世話をさせていただいてる僕も嫌われてる始末だし、これはもう無理かなぁ…
業病なんて言われてるけど、正体はハンセン病だし感染なんて無いに等しい。
だけどそれは現代の話で、戦国ではまだまだ未知の病だし自分と違う者なんて化け物扱いだ(実際制服で着物ばかりの中に現れた僕になんて、扱いが酷いのなんの…)。
大谷様の部屋に来たの、仕事持って来た三成様や様子を見に来た秀吉様と半兵衛様しか居ないよ…(忍びはわかんないけど)
「戦国って面倒だなぁ…」
さて、早く行かないと邑が煩いし、さっさとやること終わらせよう!
「大谷様、失礼します」
「遅かったな、静穂」
やる事やって邑の部屋に行ったものの、本人が居ないという「ですよね」っていう展開が出来た為、仕方なく大谷様の部屋に行った。
ら、やっぱり居たよ、この俺様三成様…!
その食べてる金平糖大谷様が僕用にってとっといてくれてるやつ!!
「刑部、静穂を連れて行くぞ」
「あい、わかった」
大谷様にいってきますと一礼して、スタスタと歩いて行く邑を追う。(クッソ足速いな…!)
「ところで、お前は馬に乗れるのか?」
「馬…ですか?乗れますけど…」
「………」
あれ…僕ちゃんと馬に乗れるって言ったよね?
「………」
「………」
何で三成様に抱えられて一緒に乗馬しているんだろうか…
「…もうリラックスして良いぞ、潤斗」
「………」
「……え、ちょ、お前何でそんな不機嫌なの」
「別に?俺は別に不機嫌じゃなかよ?」
「(仁王になってるし…)」
別に馬に1人で乗る乗らないで30分揉めた事とか、人懐っこい可愛い馬と戯れてるの邪魔されたこととか気にしてないし。
うん、気にしてない、気にしてないよ?
ニコニコしながら邑を振り返れば、邑はしどろもどろに言い訳を考え出す。
「お、俺の立場とか考えて行動してくれるのはありがたいし、刑部の事も含めてお前には頭が上がらない」
「………」
「お前に何も出来てない俺が言える立場じゃないとは思ってるが…
お前をすぐ側で感じていたい」
そうやって目と身体全体で縋られたら断れないし、僕だって邑ともっと一緒に居たい。
っていうか、犬派の僕に犬耳尻尾が見える三成様が拒める筈が無い!!
「そんなに思い詰めなくていいよ、邑。
僕は邑に会うためにバサラの世界に来たんだよ?邑から離れるなんて事しないよ」
「潤斗…」
両手で頭をわしゃわしゃ撫でれば、泣きそうな顔から一変して嬉しそうに目を細める。
邑は昔から僕に頭を撫でられるの好きだったよね。
どれだけ時間が経とうが、何度転成しようが、僕が僕である限り邑は邑なんだなぁって思うとつい頬が緩む。
「嬉しそうだな」
「うん、邑が変わらなくて嬉しいから」
「…当たり前だ。(結婚しよ…)
ほら、危ないから前向いてろ」
「はーい」
顔が赤い邑には気付かないフリをして前を向く。
最初は嫌なこと多過ぎて泣きたくなったけど、今はこの世界に来れて良かったと思ってる!
(まぁ嫌なことは心に余裕が出来たら思い出そう、うん…)
とにかく、僕は元の世界に戻るその日まで邑の傍に居ると決めた。
例え邑が僕と同じ様に三成様になったとしても、僕は傍に居続ける
だけど…
「僕の金平糖を食べたのは絶対に許さない…」
「……屋敷に着いたら…何か、甘味を用意させる」
マジすみませんと縮こまる邑の事は、甘味を食べ終わったら許してあげよう。
…え、ってか屋敷?これから邑の屋敷に行くの?
馬(ヒヒーン…(リア充爆発しろ))
「(無心無心…無心になれば何も怖くない)」
潤斗の予想は見事に当り、到着したのは石田家の屋敷。
まず屋敷の大きさに圧倒された潤斗だったが、邑は気にせず潤斗の腕を掴み中に入って行く。
が、決して身分が高くないと分かる着物で三成に腕を引かれ屋敷の中を歩く姿は正に注目の的で、正直いたたまれない。
潤斗は泣きそうな顔を空いている片手で隠しひたすら邑の後を追う事に集中した。
「顔を上げろ、着いた」
邑の背中越しに目の前の襖を見れば、周りよりも少し煌びやかな模様の入った襖を閉め丁度部屋から出て来る女中が見えた。
「うたは中に居るか?」
「はい、いらっしゃいますよ。お呼びいたしましょうか?」
「いやいい。
それよりも、辺りの女中を下げさせろ。今度の戦の話がある」
忍も下がれと天井を見上げて邑が言えば、ガタリと音がした後気配が完全に消えた。
「後でお茶をお持ちしますので、お呼び下さい」
「ああ。あと、お茶と一緒に何か甘味を頼む」
「かしこまりました」
一礼して去って行く女中のしなやかさに僕も見習わなければと目に焼き付けていれば、邑が忘れてないからなと言う目で潤斗を見る。
その視線を苦笑いでそれを受け返して、さっきから出て来る名前について聞いてみる。
「ねぇ邑、“うた”って誰…?」
「俺の正室だ」
「へぇ………Σって、ええ?!!」
「うた、私だ入るぞ」
中からの返事も潤斗の気持ちの整理も待たずに襖を開ければ、着物に詳しくない潤斗でも分かる程高級で綺麗な着物を着た美女が琴を弾いていた。
キョトンとした顔で2人をみていたが、すぐに感情が読み取れない笑みを浮かべる。
「あらあら三成様、毎度の事ながら数ヶ月も連絡を下さらないから新しい奥方でも見付けたのかと思っておりましたわ」
ニッコリと笑う美女の周りには冷気が漂い、怯えた様子で背中に隠れた潤斗に邑は美女が氷属性の婆娑羅者だと伝える。
「あら、もしかしてそちらの可愛いお嬢さんが新しい奥方かしら?」
「まぁそんなもんだ」
「え?!」
手元の琴を凍らせて立ち上がった美女の前に、邑は何のためらいもなく潤斗を前に差し出す。
潤斗に恨めしい目で見られたが、気にもせずに潤斗の両肩を掴みその場に止まらせた。
「ふふふ、近くで見るととっても可愛いお顔…を……」
「え、あ、あの…?」
氷漬けにされると身構えた潤斗を裏切って、美女は潤斗の頬を両手で挟んだまま固まっている。
「ぼ、僕何か失礼な事を…」
しましたかと続けるよりも先に、美女は潤斗を抱き寄せ邑を睨む。
いつの間にか冷気は無くなり、着物越しに暖かい体温が伝わってくる。
「邑ちゃん、この子は一体誰?私の予想は合ってる?これは夢じゃない?」
「ああ、大丈夫だ。全部お前の思った通りだよ、みっちゃん」
「本当に?本当ににお君なの?」
邑に確認する度に抱き締める腕が強くなる美女−−井上美波を安心させる様に腕に手を添えて笑いかける。
「正真正銘本物のにお君じゃよ、井上」
「にお君…!!」
涙を流すしお互いに抱き締める2人の姿は正に眼福で、これを肴に酒でも飲もうかと考え始めたが、すぐに頭を振って2人の間に入ろうと近付く。
「そろそろ茶を用意させるから離れろ
……離れろって
…………離れろ
……………離れろっつってんだろおおお!!!」
「だが絶対に断る!!!邑ちゃんすぐににお君連れて来てくれなかったじゃん!!どうせ独り占めしてイチャイチャしてたんでしょ?!半兵衛様に言いつけてやる!!」
「うるせぇ!!俺だって20年近く会えなかったんだから堪能したって良いだろ!?ってかコイツ刑部付きの女中だからそんなイチャイチャ出来てねぇよ!!大阪城の警備舐めんな!!!」
「どうせ刑部様気付いてるんだろうから部屋でイチャイチャすれば良いじゃん!!」
「多分気付いてるけど刑部の前でイチャイチャ出来るか!!数珠が頭に向かって来るわ!!」
「公表してしまえ!!」
「コイツただでさえ嫌われてるんだぞ?!風当たり強い中このヘタレチキンがやってられると思ってんのか!!」
「そうなったらこの屋敷にこればいいじゃない!!私が娶るから!!あとにお君はヘタレチキンだからこそ良いのよ!!ガクガクプルプルしてるからこそ可愛いのよ!!」
「テメェがそんなんだからヘタレ潤斗をこっちに連れてこれねぇんじゃねぇか!!!」
「ちょっと待って、もはや僕の悪口言い合ってる様にしか聞こえないってかもういい加減にしろよ」
…大谷様、大谷様が言ってた通り石田夫婦は仲が悪いんですね
二人から離れて縁側で潤斗が頭を抱えていると、庭から見える大阪城から大谷の笑い声が聞こえた気がした…
…そろそろ、怒ろうか
(ねぇ、僕お腹空いた)ニッコリ
((…うぃっす))正座中
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[mokuji]