特殊庭球×龍騎
2012/06/27 22:16
お兄ちゃんはいつもそうだった。
自分も寒いのに「暑いから」「走って行くから」「邪魔だから」って嘘ついて、よく上着を着て来ない私に自分の上着を着せてくれた。
寒くて震えてて、いつも私に歩調を合わせて走るなんてしなくて、いつもお兄ちゃんの方が荷物多いから邪魔なのは本当かも知れないけど…
「心配しなくて良いよ、これで風邪引く様な柔な身体じゃないからね」
「あ、馬鹿は風邪引かないっていうしね!」
「……真唯?」
「ごめんなさい」そんなお兄ちゃんの優しさが嬉しくて大好きで、たまにわざと寒いのに厚着して来るの忘れたりもした。
でもある日、それは変わってしまった…
お兄ちゃんの幼なじみで私のお姉さんの様な存在の人が、お兄ちゃんを庇って事故にあった。
幸い一命は取り留めたけど、ずっと目を覚まさない…
「風邪引くよ」
「お兄ちゃんこそ、風邪引いちゃうから…」
「大丈夫、寒くないから」そう言って笑うお兄ちゃんはいつもと一緒だったけど、目に光りが無くて、消えてしまいそうで…
「っ、ありが…とう…」そのいつもの優しさが、とても辛かった…
「お兄ちゃんは悪くない」そう言って少しでも罪悪感に押し潰されそうなお兄ちゃんを救おうとした。
けど、それはお兄ちゃんにとってはさらに重くのしかかって、追い撃ちをかけた…
≪ねぇ真唯、僕が居なくなったら、邑の居場所は戻ってくるかな?≫何言ってるの?
まるで死ぬみたいだよ?またいつもみたいな冗談?
違う、お兄ちゃんはこんな笑えない冗談言わない≪いつもごめんな… それと、ありがとう…≫それは私の台詞だよ
やめてよ、そんな別れの言葉みたいなの≪部活、頑張れよ…≫お兄ちゃんに勝つまで頑張るって決めてるからね。
だから、居なくならないでよ…「そっちもね、部長さん」
言いたいこと全部言えずに、電話は切れた。
待ってよ、置いて行かないで…!
走っても走ってもお兄ちゃんに追い付く所か見付ける事も出来なくて…
やっと会えた時には、お兄ちゃんは冷たくなっていた。
「真唯ちゃん…」
松葉杖で差さえながら来た邑ちゃんは、涙とかでグチャグチャになった私にハンカチを差し出したけど、私はそれを叩き落とした。
こんなの要らない…お兄ちゃんは邑ちゃんのせいで死んだんだよ?返してよ…お兄ちゃんを返してよ!!
ヒステリックになっていて、自分でも何を叫んでいたかわからないけど、きっとこんな事だと思う。
それのせいでか、邑ちゃんは『傷心旅行に行ってきます』と置き手紙を残して翌日から姿を消した…
『いつかちゃんと帰ります』と書いてあったし、邑ちゃんは約束を必ず守るから誰も心配しなかった。
きっと今頃東京とかに行ってるんじゃないかと皆が話すなか、私だけは確信していた。
邑ちゃんはきっとお兄ちゃんの所へ行ったのだとお兄ちゃんと邑ちゃんは元気かな?今頃、妬ましいぐらいに幸せに二人で過ごしてるんじゃないかな?
あれから3年、世界は変わった。
世界各地に昔お兄ちゃんと見た特撮の怪物みたいなのが現れ、どんどんと人が食べられた。
私が住んでいる場所も例外じゃなくて、壊れた場所が少なくないかつて家族と過ごした家で瓦礫に隠される様に眠っていた私は、肩に掛かったジャージを握り締めて泣いていた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…!」
私は助けられた。
怪物が目の前に現れて死を覚悟した時、怪物に所々緑が入った銀と紫の鎧の様な物を纏った二人が立ちはだかった。
『大丈夫だから、隠れてて』
『おーおー、なに人の妹になに手ぇ出してんだコノヤロー。とりあえず万死だな』
『訳わかんないよ、それι』
構えた銃と肩に担いだ杖であっという間に怪物を倒した二人は、私の元へ来た。
『怪我はないか?』
『ちょ、そんな薄着で大丈夫なんか?!
…とりあえず、これ羽織っておきな?』肩に掛けられた山吹色のジャージに涙が溢れてきた…
顔はわからなかったけど、私は確信していた。
この二人はお兄ちゃんと邑ちゃんだって。
『大丈夫、俺らがこの戦いを止めてみせるから』
『おやすみ、真唯』ここ最近怪物を警戒して眠れなかった私は撫でられた頭に安心してすんなりと眠りに落ちた。
そして目が覚めた今、涙で顔をグチャグチャにしながら二人には届かないとわかりながらも謝り続けた。
「お兄ちゃん…邑ちゃん…!」
お兄ちゃんはまだ変わらずに私の心配をしてくれた…
邑ちゃんにあんな酷い事言ったのに、まだ妹だって言ってくれた…
私はずっと甘えて自分を守って、相手の事なんて考えてなかった。
強くなりたい…いや、強くならなきゃいけない。
「力、貸しちゃろうか?」
「?!」
立ち上がった私に掛かった声は何処か聞いた事がある声で、振り返れば白髪の男と長身の男…
「戦え、戦わなければ生き残れない」
長身の男から受け取ったカードデッキは、私の未来を護られる側から護る側へと大きく変えた。
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