30万打リクエスト | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

▼軽音部室の三年生

「レオ、お弁当だよ」
「おお、ありがとうな名前! 愛してるぞっ!」
「うん、僕も大好きだよ。僕のたった一人の幼馴染さん」

ぽんぽんとレオの肩を叩いてその場を去る。相も変わらず、男に愛してるを平気で言っちゃう幼馴染。将来が心配だ。

――月永レオの幼馴染。それを喧伝することが僕、名字名前を夢ノ咲学院の皆に識別させるために、一番やりやすい方法だ。

そもそもアイドルになりたい訳でもなく、ただレオにはめられてアイドル科に間違えて入ってしまった僕は、非常にアイドル活動に消極的で。将来、万に一つもアイドルになる未来のない僕とユニットを組む相手が可哀そうなので、誰ともユニットは組まず。

そんな放浪人にもほどがある学園生活を送ってる僕にも、一つだけ根城にしている場所がある。それは――

「あ! 名前先輩だ」
「先輩、こんにちは」
「やっほ〜、葵兄弟。今日はここで弁当食べるの?」
「そう! 今日は珍しく、ゆうた君どころか大神先輩も居るんだよ」

ひなた君の言う通り、彼の隣にはゆうた君、部室の奥ではギターを抱えた晃牙くんが居た。珍しくも、軽音部員全員集合、という感じだ。……ってあれ? 

「いつも部室に引きこもってるはずの零さんは?」
「え、知らない。ゆうた君知ってる?」
「あー、さっき俺が購買に行ったとき、見かけましたけど。名前先輩、出会わなかったですか?」
「ううん、僕はいつも弁当派だから」

レオの母さんに、レオの弁当を持って行ってくれと言われるので、かならず弁当箱を持参することになるのだ。そんなこんなで、僕は完売御礼の焼きそばパンとか、幻のメロンパンとかを買いそびれている訳だが……。

なんて思いながら晃牙くんの隣に座った。露骨に「あ?」と不思議そうな顔をしている彼に、少し笑った。

「こ〜ちゃん、一緒にご飯食べよう?」
「ああ? なんで俺様がテメ〜と飯なんざ……」
「でも、そのパンだけじゃお腹減るでしょ? ほら、僕のプチトマト分けてあげる♪」
「それは、テメ〜が嫌いなだけだろーが!」

バレたか。
ええい、トマトなんか食べたくないんだ! 意地でも食べてもらうぞ! という強い意志を持って、プチトマトのヘタを取る。

「はい、こ〜ちゃん。あーん」
「お、おまっ、ちょ、顔近いわ!」
「先輩の愛の籠ったプチトマトを食べて……?」
「農家のおっちゃんの愛しか籠ってねーよ! ありがてえけど! ってむぐぅ!」

晃牙くんの優等生コメントはさて置いて、その口に赤い実を突っ込んでやった。勢いあまってちょっと指先がこ〜ちゃんの唇に触れてしまったけど、まぁこれくらい全然許容範囲、

「名前…………」

じゃなかった。
晃牙くんと息ぴったりに、ビクッ! と肩を跳ねさせ、ゆっくりと正面を向く。

するとそこには、超素敵な笑顔の零さんが立っていらっしゃいましたとさ。☆死の予感――! と漫画風に言えばこんな感じかな。

「れ、零さん? な、なに、その笑顔……?」
「このっ……この浮気者めが!!」
「ひぇっ!?」

ポコポコとかわいらしい形容詞を当てはめるには、余りにも迫力がある美人の怒りの叫び。思わず叫び声をあげた僕は正常だ。というか、いま聞き捨てならない発言がなかったかな!?

「月永くんに愛妻弁当を渡しているだけでも腹立たしいというのに、挙句の果てに我輩の根城で、若い燕とイチャイチャしおって……! さすがの我輩も怒りが抑えられぬ!」
「ちょ、ちょっと待って。落ち着いて零さん。そもそも愛妻弁当という事実はないし、晃牙くんは僕の愛人的なものでもないし。そもそも軽音部室は零さんだけのものじゃないし」

僕がセリフのほぼ九割に訂正を入れて落ち着かせようとしても、零さんの怒りは収まらないらしい。つかつかと僕の前までたつと、腕を引っ張って無理矢理立ち上がらせた。

「ええい、ぴぃぴぃ鳴くでない! 悪い子にはお仕置きじゃ!」
「ちょっと! どこ触るんだよ変態!」
「昔から、悪い子にはお尻ぺんぺんと相場が決まっておろう」
「僕は幼稚園児ですかね!?」

だいたい貴方の恋人になった覚えもないので、その怒りも不当なものなんですが。
という説得も空しく、零さんにあっさりと片腕で抱え上げられ、お尻を突き出す無様極まりない態勢にさせられてしまう。

「離してよっ、変態きゅうけつ……ひゃんっ!?」
「まずは月永くんの『愛している』を訂正せぬ仇心から反省するとよいぞ……♪」
「あっ、レオはかんけーな、あっ!?」

パンッ! と思いっきり乾いた音が部室に響く。い、痛ったぁああ!? 本気で叩いてるんですけどこの人!?

「お喋りしていい言葉は『ごめんなさい』だけじゃよ?」
「や、やだっ! 全部言いがかりだも、んぁっ! やっ!?」
「わんこまで誘惑しおって、変態はどちらじゃ? ほれ、言ってみるがよいぞ、名前」
「あっ!? あ、ひぃん!? や、やぁっ! いたいっ」

痛すぎワロエナイ。絶対これお尻真っ赤になってる。僕らのアホ極まりない行為を見ている晃牙くんは、顔を真っ赤にして僕の顔を見ていた。なに、無様すぎて笑いすぎて酸欠とかそんな感じ? こ〜ちゃん酷い。

「こ、こ〜ちゃんっ……!」
「なっ……、よ、呼ぶんじゃねえ! この変態ども!」

なんで僕まで変態でひとくくりに!? あんまりの所業に涙が落ちそうだ。実際、痛いせいで生理的な涙が目じりに浮かんでいるが。
こ〜ちゃん、ともう一度助けを乞おうとしたその時、今までより強い衝撃が僕のお尻に走った。

「はぅっ!?」
「他の男の名を呼んで喘ぐでない」
「ひゃあっ、いたいってぇ……零さぁんっ……」

連続的にお尻を叩かれて、僕はもう色々限界だ。くたりと上半身から力が抜け、床に思いっきりほっぺがくっつくレベル。ヒリヒリするその場所を、零さんが今度はやさしく撫でてきて、また声がこぼれた。

「ようやっと大人しくなったかえ。……反省するのじゃよ、我が愛し子よ」
「う、うう……なんで……」
「名前?」
「ひゃ、ひゃいぃ……」

何この『はい』or『イエス』選択肢。
僕は涙の海におぼれながら『はい』を選択。あまりの痛みに若干発音がおかしかったのはご愛敬だ。

零さんが、めそめそしてる僕のことを抱え上げ、そっと目じりにキスを落としてきた。涙を舐めとるようにされ、ちょっとくすぐったい。

「よしよし。よくお仕置きに耐えたのう、良い子じゃぞい」

そもそもなんでお仕置き受けてるの、僕……?

「う、うん……?」
「うむ。では、我輩とランチの時間じゃな♪ 我輩のカツサンドも分けてやるから、おぬしの弁当の卵焼きをくれぬかえ?」
「あ、うん。いいよ、零さん」

まだお尻がひりひりするので、固い床の上に座れない。机に置きっぱなしのお弁当箱を取って、棺桶の上に座った零さんの傍に行く。彼が自分の横をぽんぽんと叩いたので、丁重にお断りしようと思う。

「お尻痛いから座れない」
「そうかえ。おお、ならば我輩が抱っこしててやろうぞ」
「わっ……!?」
「これで良し、と。さ、我輩にも『あーん』しておくれ……♪」


「てか、なんでさっきまでスパンキングしてた人たちが、次の瞬間にはお姫様抱っこで『あーん』とかしてる訳?」
「アニキ、天才っていろんな過程をぶっ飛ばして会話するらしいから、あの人たちもそういう感じなのかも……?」
「てか名前先輩の喘ぎ声、廊下まで聞こえてたんじゃない? さっきから名前先輩のスマホ、めっちゃ鬼電入ってるんだけど」
「誰から? ってあれれ、先輩ったらスマホにロックかけてないし。不用心だな……」
「そいっ! おお〜、エグイ着信数! 『レオ』『泉』『凛月』……ああ、『Knights』の人たちだなぁ」
「あ、アニキ! かってに人の携帯を見るのは良くないって……」
「おいお前ら……部室の扉がガンガン言ってんだけどよぉ、これ俺たち出られると思うか?」
「無理と思いますよ〜大神先輩。授業始まる直前まで、籠城ですね」
「ゆうた君の言ってることは正しいと思いまーす」
「チッ……クソ三年生どもが、授業に遅れたらどうしてくれんだ!?」
「「真面目かよ」」

――軽音部の三年生は、別に付き合ってないけど今日も仲良し()です。

- 48 / 52 -
▼back | novel top | bkm | ▲next