30万打リクエスト | ナノ
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▼嫉妬には程遠い

「たのもーっ!」
「お帰りはあちらだヨ、名前ねえさん」
「いや、そこ窓だから。お帰りどころか旅立つわ。てか、呼び出したのそっちだよね?」

いささか入ってくるときのテンションはウザめだったかもしれないけど、それにしたって塩対応だ。

今日はゲー研には宙くんもつむぎくんも居ないし、一人で寂しかったのかな……と勝手にほのぼのしていると、「寒いから、出ていくか扉を閉めるかしなヨ」と言われた。はいはい、と言って扉を閉める。

宙くんが散らかしっぱなしにしたゲームを踏まないようにまたいで、空いたスペースに座る。実はゲーム大好きな私は、プレイしたいソフトが散らばっているのにうずうずしちゃってるけれど、ゲームは宙くんが居る時にしよう。……夏目くんに一方的にボコられたくないし。

「夏目くん、今日は何の用事? 『Switch』のプロデュースの相談とか?」
「違うヨ。ほら、そこの棚にある薬品取ってほしいナ」
「唐突だなぁ……よいしょっと」

まだ本題に入る気分ではないのかな。とりあえず言われた通りに薬品を取り、彼に手渡す。……ということを軽く十セットくらいやらされているので、もしかしなくてもパシリとして呼び出したのでは? という説が有力になり始めて悲しい。

怪しげな薬品を混ぜては並べ、を繰り返す夏目くんに「ところで洗剤ってまぜるな危険って書いてあるよね?」と軽く注意喚起をしておこうかなーとか思っていたら、彼の方から話題を振ってきた。

「そうそウ、与太話として名前ねえさんに聞かせようと思った話がいくつかあるんダ」

ちらりと私を見た目は、なんだか楽しそう。今から仕掛けるイタズラの成功を確かめるような目だ。

……話し相手になってほしかったなら、素直に言えばいいのに。
なんてこの後輩くんに言ったら「思い上がりって恥ずかしいと思わないかナ?」とか照れ隠しにしてはスパイスの効いたお言葉が飛んできそうなのでやめておこう。

「んー? 何々?」
「この前子猫ちゃんに、デートに誘われたんだけド」
「うそっ!?」
「ほんとだヨ?」
「ま、まままマジで!? えーっ、あんずちゃんって夏目くんが好きなの? 『Trickstar』の誰かとくっ付くかなーとか思ってたのに!」

思わぬ恋バナに高揚してしまった。普通科に居た頃は『誰と誰が付き合い始めた』とか『あの二人はもうすぐ別れそう』とか、そんな話題はちょくちょく耳にしていたので、あの頃の感覚が懐かしい。

というかそうか……あんずちゃんは意外と自分から攻めていくタイプ……これは発見……! と一人ワクテカしていたら、なんだかすっごく痛い視線が刺さる。

嫌な予感がして、恐る恐るお顔色を窺うと、そこにはものすごい不機嫌な顔で私を睨む夏目くん。

「な……なんでキレてんの、夏目くん」
「…………名前ねえさんなんか嫌いだよ」

ひぇぇ……マジトーンで怒られてるんですがそれは……。

な、なぜ? 必死に今の私の態度から悪い点を探る。どこだ? 人の恋バナにずけずけ入り込みすぎた? いや、でもこのテンションは普通科では日常茶飯事……「それな」と「マジで?」は接頭語……なんてどうでもいいことは置いておこう。

他に反省点……あんずちゃんって夏目くんが好きだったの? と言われたことがムカついた……大いにありそう。あと、『Trickstar』とか完全禁止ワードだったかも。あれ、私地雷しか踏んでないね?

「ご、ごめんね夏目くん? 別にあんずちゃんが夏目くんを好きになることがあり得ないと言いたかったわけじゃないんだ……」
「…………で?」
「で、で? え、えっと……あと、『Trickstar』の名前出してすみません……?」
「他には?」

何これ圧迫面接?
じりじりと私との距離を詰めてくる夏目くん。物理的にも圧迫されてる。理由が分からない以上、もうスライディング土下座しか選択肢が……と
私が腹をくくろうと決めたと同時、夏目くんは盛大にため息をついた。

「肉体言語は好きじゃないけド、おまぬけな名前ねえさんには一番効果的だよネ」
「ひぇっ!?」
「よいしょっト」

唐突に胴に腕を回され、抱え上げられた。どこにこんな力があったんだ!? と悪役みたいなセリフが飛び出てきそうだった。言ったら窓から投げ捨てられる予感しかしないので、なんとか抑えたけど。

しかしどうなってしまうのか、とハラハラしながら抱えられていると、彼は私を抱えたまま、ストンと椅子に着席。自然、私は夏目くんの膝の上に乗る形に。

……え?

「なっ、ななな!?」
「ボクの名前は夏目だヨ、名前ねえさん?」
「知ってるよ! けどこれはその、マズイでしょ!」
「何がだイ?」
「だって、あんずちゃんの彼氏なんでしょ……?」
「誰が一度でも、子猫ちゃんと付き合ってるなんて言ったかナ?」

にっこり。
さも当然のように言われ、一瞬すべて流しそうになった。記憶を洗いざらい探ってみると、確かに「付き合っている」とは言ってはいない……。

「……嘘ついた?」
「みんな嘘をつくヨ。ボクは自覚的に嘘をついてるけド、これくらい普通だよネ。この場合は嘘というカ、表現の問題だけド」
「……あー、もしかしてあんずちゃんと仕事で、どっかの下見に行こうって言われたとか?」
「鈍くとも正解にたどり着ク、それがねえさんの美点だネ」

正解、なんて楽しそうに笑う夏目くん。
たったそれだけの話を、ここまで盛大にこじらせてくれるんだから凄い。一周回って楽しい会話になりつつある。

まったく、気まぐれで我儘で、猫みたいな子だなぁ。でも可愛いと思うあたり、私もほかの五奇人同様に甘いんだろうけど。

「もー、私に謎解きさせたかったの? 私全然向いてないから、イライラしたでしょ」
「……確かにイライラしたネ」
「とてもかなしい」
「まったく成功しなかったんだもノ」
「え?」

何が? と思ったら、いきなり夏目くんが私のおなかに腕を回した。……抱きついてる? と気づいたのは五秒くらい経ってから。

だって、私の視点からは、夏目くんの赤くなった耳が見えるから。

「普段、ねえさんがほかのやつらと遊びに行ってるのが腹立たしいかラ、同じ思いをさせようと思ったのニ……」
「……へぇー、ほー、そっかぁ。夏目くんは、ヤキモチ妬いてたんだぁ?」
「……本当に腹立たしいネ?」

ギリギリと抱きしめる力を強めてきた夏目くんに、慌てて制止をかける。

「ま、まって待って。苦しい、ギブ」
「ボクばっかりズルいと思わないかナ? こっちが精神的苦痛を味わうなラ、名前ねえさんは肉体的苦痛を味わうのは如何かナ」
「そんな平等は嫌だ! っていうか、じゃあ私にヤキモチ妬いてほしくて、あんずちゃんの名前出したんだ?」

ぐ、と夏目くんがらしからぬ呻き声をあげた。そもそもが、彼らしくない行為だった訳で、見破られるのも当然だ。

にしても……

「可愛いなぁ、夏目くん」
「うわっ!?」

ぎゅうう、とこちらから彼の体に腕を回して抱きしめてやる。肉体言語、というかスキンシップを嫌う彼がここまでしてくれているのだ。さすがに私も、そこまで鈍くはないぞ。

「私にヤキモチ妬かせるためだけに、ここに呼んだんだぁ。喜ばれたからイライラしちゃった、なんて可愛いが過ぎる!」
「う、うるさいヨ……」

さすがに夏目くんも、このほぼゼロ距離でお澄まし顔もできなかったらしい。顔を真っ赤にしているのが、らしくなくってドキドキする。心臓の動悸まで伝染しちゃうものなのかな、なんてバカなことを思った。

「でも夏目くん、ヤキモチ妬かせるより前に、もう一個出来ることがあるんだけど……」
「……」
「あーあ、駅前のおいしいパンケーキ屋さんに行きたいなぁ。誰かついてきてくれないかなぁ」

これ見よがしに微笑んで、デートのお誘いを。
夏目くんもまた、一周回って楽しくなってきたのか。抱きかかえたままの私を見上げ、微笑んだ。

「偏食は好まないヨ」
「ここに来てまさかのお断り?」
「誰が一回でも行かないなんていったかナ?」
「ねえ、言ってよ。デート行こうってさぁ」
「誰がそんな恥ずかしいことを……と思ったけド……名前ねえさんに転がされっぱなしなんテ、末代までの恥だしネ」

くい、とリボンを引っ張られる。キスしそうな距離まで近づき、

「デートしてよ、名前」

本日二回目の、普通の喋り方。……と思わず私があっけにとられているのを、彼が逃すはずもなく。
ちゅ、と鼻先に落とされたキスは、この勝負の勝ち逃げの印のようだ。

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