30万打リクエスト | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

▼放課後、3Bにて

「で、これ何だっけ? 誰だっけ、何天皇?」
「うにゅ……後鳥羽……?」
「えっ、後白河じゃないんですかぁ?」
「名前の嬢ちゃん。そもそも其処は、天皇じゃなくて上皇だと思うんだが」

期末テストの近い放課後。3Bの机が四つ、くっ付けられていた。そこに座りたるは仁兎の君と青葉の君と鬼龍の君、末席にて名前が座す……と古文っぽく書いてみたところで一ミリも状況が変わらないの辛すぎる。

「死んだ……グッバイ日本史、こんにちは補講……!」

ばたん! と机に思いっきり伏せると、なずながツンツンと私のつむじをつつきながら元気づける言葉を告げた。

「これくらいで落ち込むんじゃないぞ〜? まだまだ、今回は戦国まで行くからなぁ」
「あはは……名前さんは戦国時代なら覚えてるんでしたよね」
「ゲームで戦国時代ってよく出てくるからねぇ……」
「じゃあ、実質は南北朝だけじゃねえか。ほら、しゃきっと背ぇ伸ばせ」
「うっす、アニキ!」
「鉄みたいだな、お前さんは」

ぽん、と紅郎くんに頭を撫でられる。
和気あいあいとした雰囲気は、すさんだテスト勉強の癒しだ。しかも全員違うユニットだけど、案外この四人は仲良しだったりする。……まぁ、クラスの半数以上が問題児だからかもしれないが。

さてやる気を出して覚えよう、と教科書を開きなおす。すると、なぜか教科書にぽたぽたと水滴がこぼれおち……

「天井が――泣いてる……?」
「現実逃避しすぎだ、名前ちん。後ろ後ろ」

振り返ると、なんとそこにはびしょ濡れで私を覗き込む奏汰くんのすがたが!

「みんななかよしですね。『おべんきょうかい』ですか?」
「奏汰くん、めっちゃ近い」
「たおるをもらいにきました」
「私は貴方の休憩所か何かかな!? もー、ほらこっち来て」

奏汰くんの手を引いて、自分のロッカーからタオルを取り出す。奏汰くんは結構高身長なので、しゃがんでもらうか椅子に座ってもらうかしなければならないが……。

「くしゅんっ」
「わ、奏汰くん風邪引いた?」
「ここは冷房が効いてるからな。ちっとばかし、温度を上げておくか」
「そうだね。そうだ、渉に電話してみよ」

演劇部の備品に、ドライヤーがあるんじゃないかと踏んだのだ。電話してみると、渉は直ぐに応答した。

「あ、渉ー? 悪いけど、ドライヤー持ってきてほしいなぁ」
『ドライヤーですか? ええ、ええ。貴方の頼みとあらば何台でも携えて行きましょうとも……☆』
「ああ、悪くないね。二、三台くらいあると便利かも? 一緒に奏汰くんを乾かそうよ」
『なるほど、奏汰が。わかりました、すぐに向かいましょう』

渉はなんだかんだ言って友達思いなので、すぐに来てくれるだろう。通話ボタンを切り、奏汰くんの濡れた頭をタオルでわしわしとぬぐった。気持ちよさそうに目を閉じている奏汰くんは、呑気にうつらうつらと船をこぎ始めている。

「名前ちん、一応着替えさせた方がいいんじゃないのか?」
「そうですね。濡れたままだと、良くないです。おれのジャージ貸しましょうか? 身長も一緒ですし、サイズも合うはずです」
「そうだね。つむぎくん、ちょっとジャージ貸してあげて」
「お安い御用ですよ」

つむぎくんもロッカーをごそごそと探し始めた。紅郎くんは「あったかいもんでも買ってくる」と言って教室を出て行った。相変わらず配慮にたけた良い兄貴分っぷりだ。

「ありました〜」
「よし。じゃあ奏汰ちん起きろー! 着替えるぞ!」
「むにゃ……うう、なまえ……ねかせてください」
「いやいや、風邪ひくからね。甘えても駄目!」
「ううん……」

いやいやと首を振る奏汰くんを、なずなと私で何とか起こす。つむぎくんがジャージを私に渡してくれようとしたけれど、「あ」と声をあげた。

「でも名前さんも一旦教室から出たほうがいいですよね。奏汰くんが着替えるなら。うっかり渡そうとしちゃいましたけど」
「そうだねぇ。奏汰のお母さんでもないし、さすがにマズイ。二人だけで大丈夫?」
「うん! に〜ちゃんに任せろ!」
「お。じゃあ頼んだよ、に〜ちゃん♪」
「おう! 終わったら声かけるから、名前ちんは廊下で待っててくれ!」

彼の言葉に従い、私も教室を出る。廊下は外に比べるとまだ涼しい方なんだろうけれど、むわっとした空気があたりを漂っていた。扉の前に立っていると僅かに教室の冷気が流れてくるので、そこに陣取ることにした。

紅郎くん帰ってこないかな、とぼんやり思っていると、ふいに遠くの方から言い争うような声が聞こえてきた。何だなんだ? と思って顔を上げると、声がどんどん近くなって――

「名前ーーーーー!」
「うわあぁっ!?」

どすんっ! と思いっきり大きな音を立てて抱き着いてきたのは、見慣れたオレンジ色の髪だった。

「いきなりどうしたの」
「ほらっ! 今すぐ『Knights』のスタジオ行くぞっ!」
「ええ!? なんで!?」
「早くいかないと、魔王が迫ってくる!」
「くっくっく。既に悪鬼の牙が届く範囲じゃぞ、月永くん?」
「零さんまで……」

廊下の向こうから、優雅に零さんが歩いてきた。

「悪いのう月永くん、今日は軽音部の活動日なのじゃよ」
「『Knights』も活動日だ! 今決めた!」
「往生際が悪いぞい? ほれ名前、おぬしも早う来ると良い。双子もわんこも寂しがっておる」
「軽音部に誰も居なかっただろ! レイ、おまえ名前をどうするつもりだっ、がるるるるっ!」

むぎゅー! っと私をぬいぐるみか何かのように抱きしめて離さないレオと、ニコニコ笑顔で無言の圧力をかけてくる零さん。この二人、仲良しなのかそうでないのか、良く分からない。これでもじゃれあいのつもりなのだろうか……。

「ちょ、ちょっと何? 今私は、奏汰くんの髪を乾かすという重要な使命を帯びているから両方付き合えないよ」
「奏汰? 誰だそれ? あっ待って答えは言わないで! 妄想するからっ!」
「また水浴びかえ。あの子も変わらんのう」
「おやおやおや? これは珍しい! 王と魔王と女王陛下ですか、なんとも輝かしいばかりの組み合わせですねぇ! Amazing☆」
「あっ、渉! 三台も持ってきたのね、さすが!」
「ええ、タコ足配線を持ってきましたから、三台同時使いが可能ですよ」
「ナイス。あ、そうだ。零さんとレオ、手伝ってよ。そうしたら二人ともに付き合ってあげるから」

名案だ。これで二人の謎の口喧嘩もうやむやにできるし、奏汰くんを可及的速やかに乾かすことができる。

「はっはっは……まったく、名前にはかなわんのう」
「普段は零さんに振り回されてるんだから、これくらい許して?」
「許さぬ、というはずもないことを分かっておるから、性質が悪いのう……?」
「ううー……名前、おれもやるのかー?」
「やらないと、行かなーい」
「うぐぐ……分かった、おれもやるからー」

レオが不満げに頬を膨らませているけど、離れないあたり、我慢する気はあるようだ。

「吸血鬼も獅子心王も形無しですねぇ」

めずらしく、渉の落ち着いた声が廊下を響いた。するとちょうど、紅郎くんが飲み物を買って戻ってきて、私たちの組み合わせを見て怪訝そうな顔をしながら、前の扉から教室に入っていった。

部屋の中から「入っていいぞ〜!」という呼び声が聞こえたので、3Bの扉を開いた。

- 30 / 52 -
▼back | novel top | bkm | ▲next