30万打リクエスト | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

▼計画は海(偽)の底で

「奏汰くんといちゃついてみたい!」

ばん! と背景に効果音がつきそうなほど堂々と言えば、薄暗い海洋生物部の中に居ても分かるほど、死んだ目をしてこちらを見てくる颯馬くんと、腹を抱えて笑う薫くん。ええ、二人とも酷いよ。

「あはははははっ、俺たち集めといてなにそれ、面白すぎでしょ!? いちゃついてみたい? やればいいじゃん、恋人でしょーっ?」
「薫くん笑いすぎだから。あと颯馬くん、顔死んでる」
「はっ……! うむ、すまぬ名前殿。我は少し、恋愛話には疎いのでな……どう反応しようかと悩んでおったところだ」

悩んでたらあんな顔になっちゃうんですか。と颯馬くんを問い詰めてみたいところだが、とりあえず笑い転げてる薫くんは許さない、絶対にだ。

「あは、はぁ……死にそうだったよ全く……。もう、名前ちゃん拗ねないでねー?」
「拗ねちゃう」
「ちと羽風殿は無礼が過ぎるぞ。名前殿は真剣に、部長殿との交際に悩んでおられるのだ」
「まるで別れ話みたいになってるよ、颯馬くんっ!」
「なんと! いや、そのようなつもりの発言ではっ……お詫びに切腹いたす!」
「ぎゃああ! 短刀ダメ! 柄まで通っちゃうー!」

ハラキリしようとする颯馬くんをなんとか宥め、所定の位置に押し戻す。二人はようやく落ち着いてくれたようで何よりだ。

「で、どうすれば奏汰くんといちゃつけると思う?」
「……全然、想像もつかぬ。好色一代男には分かるのではないか?」
「ちょっと、何その辛辣なあだ名。いや、悪いけど俺も分からないよ。奏汰くんだよ?」
「結局その結論に落ち着くか、やっぱり……」

三人、難問を抱えているかのように首を傾げた。三人揃っても文殊の知恵らしきものが浮かばないので、中々相手は難しい。

「まぁ、奏汰くんだって男の子だし。普通に自分からちゅーでもしたらいいんじゃない? 普段どっちからするの」
「えっ、そ、それは……奏汰くん、だけど……」
「うんうん、なら問題ないよ。普段からしない子からしてきたら、燃えるものだし」
「汚らわしい体験談もあったものであるな」

なんて、三人仲がいいのか悪いのか分からない会話を、顔を突き合わせてしているところ、急に部室が少し明るくなった。外からの光が入り込んだのだ。

「あ、奏汰くん」
「あれ……? みんなそろって、なかよしさんですねぇ」
「ハロー奏汰くん。でも、ごめんねー俺と颯馬くんはもう帰るから」
「うむ、そうであるな。非礼の段、お詫び申し上げる」
「そうなんですか? すこしざんねんですが、いそがしいなら……しかたありませんね」

どうやら二人は、気を遣ってくれたらしい。薫くんが部室のカギを奏汰くんに手渡すと、ぴしゃりと扉を閉めて出て行ってしまった。

「ふたりとも、なかよしさんになったんでしょうか」
「う、うん。そうかもね」
「……? どうしたのです、なまえ?」
「え、な、なにが」
「きんちょう、していますね。『かめ』の『こうら』のように、かっちんこっちんです」

おっふ。既に違和感を察知されちゃってるんですけど……でも、薫くんのアドバイスは信用できるし……。実行しなければ。

奏汰くんの手をとって、ちょっと部屋の奥に入り込む。うっかり薫くんが「忘れ物しちゃった」とか言って戻ってきたら死ぬし。

「なにかあるんですか……?」
「え、えっとね……ちょっとかがんで」
「? はい……」

不思議そうな顔をして、けれどちゃんと奏汰くんは私のためにしゃがみこんでくれた。この無防備な彼には悪いのだけど、ええい、やるしかない!

「奏汰くんっ」
「はい、なまえ、……んむっ」

ちゅ、と一瞬唇を重ねる。ぎゅっと目を瞑っていたから分からないけど、ずいぶん驚いたような声が聞こえてきたので、サプライズ的な意味合いでは大成功なのかも、しれない。奏汰くんの驚いた顔、ちょっと見たかった気もした。

どうしよう、ていうかこれ、目を合わせられない。恥ずかしい……。

「おどろきました……」
「あ、ほ、ほんと?」
「はい、とっても」

案外、奏汰くんはいつも通りに話しかけてくれた。もしかすると、照れている私を気遣っているのかもしれない。ありがたく、彼の方を向いた。

「えへへ……恥ずかしかった」
「もしかして、かおるの『いれぢえ』ですか?」
「うん。えっと、その……奏汰といちゃつきたいって言ったら……自分からキスしてみろって言われて」

うう……恥ずかしい。なんで私、素直に全部言っちゃったんだろう。奏汰くんはとっても驚いた顔で、私を見た。けれどすぐに、緑色の瞳をきらきらと輝かせる。

「ふふ。なまえは、そういうところが、かわいいですね……♪」
「うぐ……奏汰くんのほうが可愛いし」
「いいえ、なまえのほうです。だって、そうしたいなら、ぼくにいえばいいのに……わざわざかおるとそうまと『そうだん』するなんて」

それに、いってくれれば、いくらでも『いちゃいちゃ』したのに。
そう言って笑う奏汰くんが、薄暗い部屋の中で僅かに目を細めると、まるで人魚のようだなぁ、なんて思ったのだった。

……この後人魚に食べられるなんて、誰が想像したと思う?

- 29 / 52 -
▼back | novel top | bkm | ▲next