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一説によると。

吸血鬼はとても愛情深く、一度人を愛せば、その人の流す血しか受け付けなくなるという。そしてその人間が死ねば、吸血鬼はほかの人間の血を吸うことなく、衰弱しながら死んでいく。
吸血鬼を殺すのは神父でも退魔師でもなく、自らの恋であった、と。なんともロマンに満ちた話だ。

「ねぇ、名前〜……」

その愛情深い吸血鬼、と思われる凛月は、珍しく困った顔をしていた。彼の肩には、寄りかかる様にして一人の少女が眠っている。凛月が普段膝枕を頼んでいる相手、なのだけど。

「起きてよ……暇なんだけど……」
「……すぅ……」
「えぇ……マジ寝してるし」

普段、自分に10分とは言わず膝を貸してくれる名前は、こんな時どうしていたんだろう。こんなに近くに居るのに、凛月に話しかけてもくれないし、微笑みかけてもくれない。たまらなく損をしている気分だ。

「ねぇ、俺せっかく起きたのに、また寝ちゃうよ……? 留年したら名前のせいだからね……」

拗ねたような声色で凛月が恨み言を言って、名前の肩を軽くゆすってみる。んん、と迷惑そうな声しか返ってこないので、ますます嫌な気分になる。
元来猫のように気分屋な性質のある凛月だ。段々と苛立ちはじめ、本格的に揺さぶりをかけようと両手を名前の肩にかけたその時、だった。

「ん〜……りちゅ……」
「おわっ?」

抱き枕を見つけた子供のように、名前が凛月に抱き着いてきた。薄らぼんやりと目が開いて、彼女が夢と現の間を彷徨っているのが分かった。

「俺はりちゅじゃなくて、りつ、なんだけど?」
「うふふ、ねむーい……」
「ムシしないでよ、甘えんぼう」
「りつほどじゃ、ないよー……」

ぐりぐりと頭を凛月の首に擦り合わせてくる名前。これじゃあいつもと全く立場が逆だった。俺はお世話焼かれる側ね、と幼馴染に言ったセリフを思い出し、「あの言葉、少し訂正ね」と聞こえるはずない真緒に向けて脳内だけで言った。

甘えられるのも、悪くはない。むしろ、良い。そんな風に思う日が来るなど、凛月は想像もしなかった。にまにま笑ってしまいそうな口元を抑え、すり寄ってくる名前をぐいっと引き剥がす。

「ねぇ。起きて」
「けち」
「俺を寂しがらせたんだから、それ相応のことをされても、文句はないよねぇ……?」
「……はっ?」

雷に打たれたように、名前の意識が覚醒した。けど、もう今更だ。凛月はそのまま名前の体に体重をかけて押し倒した。草の匂いと、名前の使っているシャンプーの匂いが鼻をくすぐる。うっとりとしながら、今度は凛月が名前の首筋に顔を寄せた。

「ちょ、ちょっとまって」
「なに?」
「痛いから、噛まないで……」

名前は怯えたように首を振って、子供のような拒絶を見せる。凛月は血が欲しいけれど、それは最終目的じゃない。副産物でもらえれば儲けもの、程度の重要度であって、名前に愛されることが最重要項目だった。だから、普段は素直に言うことを聞く。
こんなに美味しそうなのに、まだ白い喉は吸血鬼の牙をしらない。その事実はなんだか甘美で、凛月は思わず舌なめずりする。ひぃ、と声を零す名前は捕食される動物みたいだ。

「名前は、俺が衰弱してもいいんだ?」
「え? なにそれ」
「吸血鬼は、好きな人の血以外は飲めないらしいよ……?」

どこぞのSNSから得た知識だけど、と心の中で付け加える。
名前なら呆れ顔で笑うかと思ったけど、少し拗ねたような顔をしたので、凛月はおや? と首を傾げる。

「なら、あんずちゃんの血なんか、舐めないもん……」
「え」
「……凛月、血をあげない私は好きじゃないんだね、ふうん」

自分でも言っていて恥ずかしいのか、名前が頬を染めながら言った。凛月はそれどころじゃない。あの名前が、俺たちの、あの公平を絵にかいたような女王が。……嫉妬してた?

あまりにも予想の範疇を超えていて、頭の回転が追いつかない。ぼんやりと名前の顔を見つめていると、凛月の小鼻を名前が軽くつまんだ。

「にやにやすんな!」
「してないよ……たぶん」
「してた、絶対」
「そう? だって嬉しいんだから、しょうがないでしょ」

やんわりとその手を外し、もう一度首筋へ顔を寄せる。噛みつく、のではなくキスをする。れ、と舌で僅かに舐めれば、くぐもった声が凛月の耳元まで聞こえてくる。

「あっ……」
「きもちいいでしょ?」
「っう……血はいや……」
「ちぇ。じゃあ、甘噛みだけさせてねぇ……」

かぷ。
ほんとうにその擬音がぴったりな、幼子のようなそれ。

けれど、血を得ることがなくとも、満たされる何かがあることを、凛月は知っている。

だったらいまはコレで良い。今、凛月がやるべき事は、少し拗ねたように凛月を見る少女に、慣れない睦言を囁くことだった。

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