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俺のデルモ弟がこんなにお兄ちゃんなわけがない!
【速報】昨日入居したアパート、火事でダイナミック崩壊する

な、ひどすぎるだろ? 神様は俺を顔面偏差値的にも不遇にしたくせに、まさかの家無しにするこの非道。絶許である。俺の大学生活どうしてくれるんだ??

とりあえず親に「家がwwwあぼんしたwwww」と伝えたところ、弟のところでしばらく暮らせとのお達しが来た為、現在弟の住んでいるマンションの部屋の前だ。インターホンを鳴らすと「名前くん? 今開けるからねぇ」と猫なで声が響いてくる。

「よっ、泉。悪いな、しばらくお世話になるよ」
「ううん、気にしなくていいんだよ? 俺は名前くんなら、いつでもお世話してあげるからねぇ」
「あはは、相変わらず頼りになるなぁ」
「どーも。ほら、荷物かして」

そう言って自然な感じで俺のトランクを引き受けてくれる弟。相変わらず優しい。

瀬名泉。
俺の弟だが、そのスペックは俺より遥か上を行くやつだ。第一モデルをやっている時点で高身長に顔面偏差値70なことくらいはお察しだろう。その上いま、彼は夢ノ咲学院のアイドル科に所属し、アイドルまでやっているのだ。
更に、料理上手で家庭的な一面もあり、努力家で、兄である俺の面倒も嫌な顔一つせず見ようとするのだからしゅごい……! 本当に天は俺に与えるはずだった能力値こいつに全振りしてる。間違いない。

「あ、もう晩御飯食べた? 残り物でよかったら出せるんだけど……」
「食べた食べた! さっきワック行ってハンバーガー食べてきた」
「ちょっとぉ。栄養バランス悪いもの食べないでって言ってるじゃん。名前くん、俺の家にいる限りは外食禁止だからね!」

泉が顔をしかめてそう言った。別に、ハンバーガーくらい……と思ったが、デルモの泉と俺では意識の差が違うのだろう。弟の言い分はもっともだ。

「わかったよ」
「よろしい。名前くんは太りやすいんだから、ちゃんと俺が管理してあげなきゃね……♪」
「俺モデルじゃないし、体形管理とかいらないのになぁー」

すらりとした泉にそういわれると、ぐっさり来るものがあるぞ。

にしても、まるで子供に接する過保護な親みたいだなぁ。俺のことを昔から『お兄ちゃん』とかではなく『名前くん』と呼んでいるから、余計にそう感じられる。

「なんか泉ってさぁ、俺のお兄ちゃんみたいだよなぁ」

そんな感想がこぼれ出たのも、すごく自然な気がした。兄の俺が何を言ってるんだという感じだが。

「……っ! それ、ほんと?」
「え? そりゃあ、お前の方がしっかりしてんじゃん」
「そ、そっかぁ」

おや。泉はとても嬉しそうに頬を赤くしている。

これ写真撮ってファンに売り付けたらどのくらいになるんだろう、だなんて俗世にまみれた兄を許してほしいところだ。いや、もちろん撮らないし売らないからね? ちょっとした興味関心意欲だ。学校の内申みたいになった。

「と、とにかく。ご飯食べたなら、今日はもう遅いしお風呂入っておいでよ」
「はーい。じゃあ風呂お借りするぜ? 泉『おにいちゃん』」

ひらひらと手を振って、風呂場へと入った。自分で稼いだお金があるから、泉の部屋は俺の(元)部屋よりずっと広い。風呂場への期待値も上がっていた。



「名前くん、もうちょっと詰めてよ」
「はい???」
「もう、俺が入れないでしょー?」

入る意味が分からないんだけどぉ〜?
と弟風に問いかけてみたいが、それすら叶わないほど混乱していた。

いや、だってほんの数行前の文章見て? 俺、どうみても一人で入浴しようとしてたじゃん? 実際一人で俺は風呂場に入り、さぁゆっくり頭と体を洗おうかというときに、弟の登場である。な? 意味が分からねえだろ?

「いっ、泉? な、なんでお前がここに」

泉の均整の取れた体つきが眩しすぎる。俺のちょっと緩んだ感じのボディを見ないで頂きたい。というか、お前の全裸を見せるんじゃねえ! という正当な主張から始めたほうが良いのだろうか?

俺が口をはくはくさせていると、泉はにっこりと美しく笑いながら、

「俺は名前くんの『おにいちゃん』だからねぇ? 名前くんがお風呂場でこけたりしないように、ちゃんと見ててあげなきゃいけないの……♪」
「ふええ……」

完全に幼女みたいな声で叫んでしまったが仕方あるまい。あまりの衝撃的な主張に知能レベルが2くらいまで下がってしまったのだ。俺は悪くない。

こけないように? 見ててあげる? え?? 何言ってんのこの子。

「い、泉……冗談だとは思うけども、俺は平気だよ……?」
「だめだよぉ、お兄ちゃんが見ててあげるからね? それとも……お兄ちゃんが洗ってあげようか?」
「ひぇええ!?」

な、なんだこいつ!??(理解不能)
という感じなんだがマジで誰か翻訳こんにゃく持ってきて。
ボディソープがいきなり肌に直で垂らされ、思わず悲鳴を上げてしまった。おい、そのまま右手に持っているタオルでこするつもりだろう!?

「こぉら、名前くん。じっとして……」

なぜかクソ激甘ボイスで囁いてくる泉。や、やめろください! 弟と洗いっこしたんだぁ♪ とか、俺の男としての尊厳が失われる気しかしねえ!

「ふ、ふざけんな! おい泉っ、俺がお兄ちゃんなんだぞバカなのか!?」
「だって名前くん、さっき俺にお兄ちゃんさせてくれるって言ったもんね。自分の言葉に、ちゃあんと責任取ってくれない?」
「えええええ!」

自分より背の高い弟に迫られる。背後は壁、前には弟。あっ、これ詰んだわ……。

――次の日、滅茶苦茶新しい物件探しにいそしんだ。


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