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上の続き

「おい、何をこそこそしているんだ」
「わっ……! け、敬人。……やっぱり見に来たんだね」
「そっちこそ、よほど老人と愛犬のことが気がかりと見えるが?」

『デッドマンズ』の衣装に似たモノで身を包んだ敬人が、私の隣に立つ。ステージの舞台袖で、こっそりと『UNDEAD』の顛末を見守るつもりなのだろう。

「実際、『デッドマンズ』は『UNDEAD』の前身のようなものだからな。俺もまぁ、無関係ではない。……義理は果たしたと思われる」
「はは。無関係ではない、どころか……『デッドマンズ』は立派に敬人が主人公だったよ」
「朔間さんを差し置いてか? バカを言え。俺は主人公なんてタマではない。しがない、情けない物書きだったんだ」
「でも、あの時敬人が書いた筋書きがなかったら、いまの夢ノ咲は存在しなかったよ。だから、――ありがとう、敬人」

【返礼祭】なのだから。せめて今日くらいは、関係ないふりをしなくってもいいよね。

実際、敬人には感謝しているんだ。
敬人が居なければ、私はこの場に居なかった。こうして零さんにも会えなかった。

「……ふん。度し難いな……こうも卒業間際というものは、感傷的にさせられる季節だったか?」

そう言った敬人の顔も、ずいぶんと晴れやかだった。――ちょうど、ステージの上で穏やかな顔を見せている零さんと一緒で。

向こうでは晃牙くんが、零さんに『果し合い』を申し込んでいる最中だ。彼はいま、世界で一番尊敬している一人の人間を超えようとしているのだ。……先輩にとって何よりの返礼を、ここで果たそうとしている。

「正々堂々、果たしあおうぞ。これは、じゃれあいではないぞ……晃牙?」
「はんっ! じゃあまずは、その気が抜けるジジイ口調をやめろよなっ?」
「はて、久しぶりすぎて、ふつうのしゃべり方が思いだせんな?」

その言葉を聞いて、私と敬人は同時に笑ってしまった。

「はは、名前! 聞いたか、今の言葉!」
「っははは、聞いた聞いた。もう何回、私たちを『俺』で思い通りにさせようとしてたことか!」
「まったくだ、度し難いやつめ。ふふ……そんな嘘をついて、俺たち以外にはバレないと思っているのか」

悪戯っ子のように微笑む敬人。私の隣で、こうやって笑いあって、零さんを少し後ろで眺めて。……懐かしいこの感覚。晃牙くんは知らないはずなのに、彼のお陰で、奇跡のように……この感覚は蘇った。

リビングデッド。よみがえる屍。
『デッドマンズ』が蘇ったはずみで、過去の輝かしい思い出まで息を吹き返したようだった。

「忘れんなよ、ボケ老人が。俺様の口調そのまんまだよ、昔のあんたの口調はさ。憧れて、真似したんだよ! ――なぁ、名前! ついでにそこのクソ眼鏡!」
「えっ!?」
「なに?」

いきなり渦中の『主人公』に呼び止められ、慌てる読者と書き手がここに。なんて冗談を言ってる場合ではない。ステージの最中に、舞台袖の人間を呼ぶなんて真似……普段の晃牙くんなら絶対しないんだが。

「なあ、俺は礼儀とかモラルはちゃんとしてえんだよ。でも、てめ〜ら二人の『先輩』にはしょうがなく、例外措置ってやつをとってたんだ」
「例外措置、だと?」

敬人が怪訝な顔で晃牙くんに尋ねた。彼はとびっきりの明るい声色で、「おう!」と返事を返す。

「だって、朔間先輩は、てめ〜ら二人だけは特別にしてただろ〜が! だから名前って呼び捨てしたし、クソ眼鏡ってワザと怒られるようなあだ名で呼んだ! 俺はずっとずっと、てめ〜らが勝手に死体と思ってた『デッドマンズ』を、あの時の朔間先輩を、せめて俺の言葉で残したかったんだよ」

だって俺は、『デッドマンズ』は世界一カッケ〜と思ってるんだから!

そう叫んだ晃牙くん。ああ……なんて、なんてそれは眩しい。逆光となって、目を焼くようで。

「っておい、泣くんじゃね〜よ名前! 俺が朔間先輩に怒られんだろ〜が!」
「っ、うう、こ〜ちゃん……!」
「うるせー! 晃牙って呼べって言ってんだろ、名前! いや、――名前先輩。俺は、てめ〜をガチで尊敬してんだ! 大好きなんだよ、ずっと前から! 女の先輩なのによぉ、カッケ〜って思っちまったんだ! 一年前から、今日までずっと!」
「なっ!? こ、晃牙や、それはどういう意味じゃ!?」

私が驚く前に、零さんの方が先に驚いて晃牙くんの肩を揺さぶる。その手をうざったそうに跳ねのけ、彼はにやりと笑った。

「耳が遠いのかよ? 俺は、名前が好き、って言ったんだ。意味なんてねえだろ。――あんたの気持ちと一緒でさ!」
「――晃牙。それはつまり、俺に喧嘩を売ってるってことか?」
「お〜。やっと本気になったかよ、朔間先輩? ま、挑発の為だけに『好き』って言ったわけじゃね〜けど。【返礼祭】なんだから、俺も最後に言わなきゃって思っただけだよ。はぐれものなりに、精一杯の感謝と愛情っぽいものをこめて、――先輩たちにお礼をさ」

そこまで言いのけて、晃牙くんは敬人をステージに呼んだ。「蓮巳先輩」って、彼がさっき言った通りの感情をこめて。

「やれやれ……ユニット内の痴話げんかならまだしも、恋愛感情まで持ち込んでくるのか? バンドが解散する前触れのような話題だな」
「け、敬人……こ〜ちゃんのあれって、やっぱそういう意味?」
「知らん。野生の感情など、人間の俺たちに分かるか」
「あははは……そうかも」
「――ああ、そうだな。お前はそうして、笑っていてくれ」

ふいに敬人が、呟くように言った。
笑っていてくれ。
呟きよりは、願いに近い言葉を。

「きっと俺と朔間さんは、お前のその顔が大好きだったんだ。いや――今も好きだ。感謝している、お前に。遺骸をかき集めて、つないでくれたお前に。名前――」
「お〜い蓮巳ちゃん! 何抜け駆けしてんだよ! ずり〜からあと三秒でここに来い! ほらさーん、にーぃ」
「バカかあんたは!? ったく、度し難い!」

敬人は弾けるような笑顔と共にステージに去った。

ただ一人、あのときのように、ステージの袖に残された私は。
【デッドマンズライブ】のときのように、悲しい思いは託されず。只今は――溢れるような、美しい思いのみを両腕に抱えていた。

「やれやれ、『UNDEAD』も『デッドマンズ』もラブラブってことですかねぇ〜? 一年生の俺たちには、状況飲み込めないけど?」
「まあいいでしょ、アニキ。何にしても、人の恋愛劇を出刃亀すんのって、楽しいものだし……♪」
「いうねえ、ゆうたくん♪ さぁさぁお客さんたち! ただ今より、緊急のライブ対決を始めます! 俺らが大好きな先輩たちの、最初で最後の真剣勝負だ〜☆」
「歌声にのせてお送りしますよ〜っ、夜が明けるまでずっと♪」
「まぁお察しのとおり、このひとたちはラブラブなんですけどね!」
「のろけ話、あるいは恥ずかしい青春の告白大会みたいになっちゃうと思いますけど〜、呆れずに最後までご笑覧くださいっ☆」
「Ladies & Gentlemen♪」
「そして、誰より何より大好きな、俺らの先輩!」
「「名前先輩も!」」
「Attention Please……☆」



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