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UNDEADと女王

「ううむ……」
「どうしたの、零さん」

珍しく『UNDEAD』のメンバーが揃ったからレッスンに付き合ってくれ、と零さんから全部ひらがなのメッセージで送られてきたので、さっそく『UNDEAD』の借りている防音練習室を覗いた。すると、珍しく顎に手を当てて考え込んでいる零さんの姿が。

「おお、よく来たのう我が愛し子よ……♪」
「うぎゃっ! もー、今の時期抱き着くのはダメだって!」
「な、なぜじゃ!? まさか反抗期――」

そういう長期的スパンの話ではなく。と、零さんの真っ青になった顔を見て冷たいツッコミを入れられるほど、私はクールキャラではなかった。それにしても「抱き着くな」の一言でこの動揺ぶりである。やだ凛月、お兄ちゃんにトラウマ植え付けすぎ――!? 

「単純に、夏だからっしょ」
「そうそう。薫くんは話が早いなー」
「まあねぇ。あ、俺も今汗かいてるからあんまり近寄らないでね? 恥ずかしいから」
「おや、薫くんが汗かくほど頑張ってるなんて偉いじゃん?」

どうやら薫くんはアドニスくんと組んで練習していたらしい。で、零さんと晃牙くんも組んで練習中と見た。

「ああ、先輩。今日は宜しく頼む」
「うん、よろしくねアドニスくん。早速だけど、零さんはさっきから何を悩んでるの?」
「どうも、ダンスの振り付けに不満があるようだ」
「ダンスの振り付けに?」

次のドリフェスに向けて、現在各ユニットが調整中という状況。あんずちゃんと私はユニットを二つに分けてプロデュースしている。あんずちゃんが「多めにユニットを受け持って腕を磨きたい」と素晴らしい申し出をしたので、比率的には2:1くらいなのだが。

残念ながら、私の担当から『UNDEAD』はグループ漏れしたので、あんずちゃんにほぼ丸投げ状態だったのだけど……?

「あんずちゃんの持ってきた振り付け、そんなに可笑しいところはないと思うけど……」
「ああ、それは先輩の言う通りでもある。だが……良すぎる、といえばいいのだろうか?」
「良すぎる?」
「優等生すぎる、というべきか……難しいな。どう表現したものか」

アドニスくんの言いたいことを拾うように、零さんが言葉をつづけた。

「アドニスくんの言う通りじゃ。あの子は清いからのう、我輩たちの傾向に合わせるにはまだ早い」
「健全すぎってとこだな」

晃牙くんがさらりと零さんの不満を要約してくれた。

「こ〜ちゃん、でもこの踊りは割と気に入ってたよね」
「ああ? まぁ、悪くはねえな。それに、今更振り付け変更する訳にもいかね〜だろ」
「確かに……あ、そっか。零さん、アレンジしてほしくて私のこと呼んだ?」
「そういうことじゃ。何、我が愛し子はもともと思考が『こちら寄り』じゃからのう。それに、三人どころか五人おるのじゃ。文殊の知恵も浮かんでこようて」

確かに、性格的には『UNDEAD』と波長が合うのは否定できない。あんずちゃんに正統派と言える『Knights』を任せた方が、今の経験値的には良かったのかもしれないな、と担当分けをミスったのを若干反省した。

まぁともかく、今は振り付けだ。
ざっと一度踊ってもらって、それをスマホで撮る。決して悪くはないのだが、確かに背徳感や過激さには少し欠ける気がした。

「うーん、今まで私が見てきたダンスの中で、過激とか背徳的っぽい振り付けねぇ……? 蹴り上げるようなモーションを入れるとかどう?」
「大して効果ねーだろ。キックモーションくらいなら何処だって入れるだろうしよぉ」
「うーん確かに」

今まで見たアイドルは実はそんなに多くないのだが、ちょっと次元が一個下のキャラのダンスは数多見たので、そっち方面で思い出そうか。そう考えると、どんどん『UNDEAD』に合いそうなモーションが思い出せるので本当に業が深い。

撮った動画を見ていると、ふと妙案が。

「あっ、ここ良いんじゃない?」
「大神が、しゃがんでいる朔間先輩を立ち上がらせる所か」
「そこだけ聞くと青春ドラマみたいでウケる」
「薫くん、茶化さないの! ほらほら、ここをさ、立ち上がらせるのやめて、うまい具合にターン入れて自分で立ち上がって」
「こうかのう」

私のふわっとした要求にも、さらりと零さんがそれっぽく合わせてくる。

「そうそう。で、こ〜ちゃんが今度しゃがむ番でしょ? そのときこ〜ちゃんも似たような感じでしゃがんで」
「ちっ、こうかよ。つーかそのあだ名止めろ」

晃牙くんも上手いこと応えてくれた。そこで私は、零さんの立つだろう位置に立つ。

「で、ここで丁度曲が三つビート刻むから、ここでビンタするフリのモーションとかあったら面白いと思うの」
「ビンタかえ?」
「はああ!? なんで俺様が吸血鬼ヤロ〜にビンタされるフリなんかしなきゃなんねーんだよ!」
「まぁ、意外性はあって良いかもねぇ。ちょっと試しにやってみてよ、『プロデューサー』さん?」
「ええっ、私が?」
「音響を流してくる」

アドニスくんが気を利かせて、曲を流し始めてしまった。ええい、私がやらねばならないのか!? 零さんの方を見ても、ひらひらと笑顔で手を振られるだけだ。

「ええと、ちょうど前の方で躾云々って歌詞が出るから、ここで」

音ハメするように、晃牙くんの前でタイミングを合わせてビンタする真似をした。腕は大ぶりに、そうしたほうが手足の長い零さんがやるには映えるだろう。

「で、ちょっと薄く笑うくらい! どう?」

我ながら中々のパフォーマンスが出来た気がして、満足して晃牙くんの方を見る、と。

「えっ……なんで顔赤いの……?」

晃牙くんがぱちぱちと瞬きしてこちらをガン見していた。心なしか頬も赤い。え、ナニコレ、ガン飛ばされてる?

慌てて三人の方を振り返ると、薫くんはあからさまにニヤニヤしてるし零さんも良い笑顔でこっちを見てる。アドニスくんだけだ、正常な顔でこちらを見ているのは!

「ヤバいねぇ……ほんとに、女王様ってあだ名似合ってるって実感したよ〜」
「は!? ど、どういう意味ですかね薫くんっ!?」
「初心なわんこが放心しておるわ。やりすぎじゃよ、女王様……♪」
「れ、零さんまでっ!」

にやにやと厭らしい笑顔で同級生に見られる私、可哀そうすぎかな? そ、そんなに怖かっただろうか。

「怖いというか、『女王』と呼びたくなると言うかのう……?」
「ほんと、君って絶対『Knights』より俺ら寄りだと思うんだけど〜? 似合うねえ、その高圧的なモーション」
「確かに、先輩には貫禄があったと思う」
「言いたい放題っ! ち、違いますー! 私はやさしい先輩ですけどっ!? ね、こ〜ちゃん!?」
「う、うっす……先輩……」
「一年前の素直なこ〜ちゃんがログインした!??」

どうしよう、零さんを朔間先輩呼びしてた頃そっくりの口調に戻ってるんですが。ほんとにワンコみたいになってるよ!? 

「こ、こ〜ちゃん……ほぉら怖くないよー……?」
「っうう……」
「顔赤くしないで! お願いだからーっ!」
「ちなみにさっきの、動画撮ったんだけど?」
「おお、ナイスじゃ薫くん」
「薫くんっ、今すぐデリート! デリートプリーズ!」

薫くんの手元にあるスマホを奪い取ろうとするけれど、178pには勝てなかったよ……。彼が顔の前にスマホを構えるだけで、まったく取れなくなってしまう。

「とりあえずは瀬名くんに送信してみようかな? 面白そうだし」
「だめ! ぜったいダメ!」
「くっくっく……そうは言ってものう。我輩たち、背徳的なユニットじゃし?」
「言い訳に背徳的使えば許されると思うの良くないっ!」
「ふむ、そうかえ。じゃあこの動画を送らぬ代わりに……」

『Knights』だけではなく、『UNDEAD』もプロデュースしておくれ……♪

……という零さんの発言に、序盤からすべてが罠だったことを悟ったのでした。『UNDEAD』恐ろしい子……!



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