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Knights the Phantom Thief

Step.32 悪い子

突然だけれど、この部屋には窓がない。

密室空間に、一つだけ外へのつながりが見える状態は、精神的負担が激しいのだ。無駄と知りながら窓を引っ掻くもの、窓が開く場合には飛び降りようとするものを容易に生み出す。だから、大人しくさせた対象を監禁するには向いていない。

ので、私は真っ白な部屋に入れられている。さらに入り口に面する壁は一枚のガラスが張られており、扉から約三メートル程度離されている。ガラスには【Please separated by more than one meter(一メートル以上離れてください)】との張り紙。私は猛獣か何かか、と笑いたくなる。

ガラスの中に入るのは、日和とジュンくんだけ。そもそもこの部屋に寄りつく人間自体いない。私だってできることなら避けたい部屋だし。

だから――

「ど、して……」

銀髪碧眼の王子様が侵入してくるなど、間違っても、夢想したことなかったのに。

呆気に取られて茫然とする私をよそに、泉くんは今までで見た中で、一番魅力的に見える、美しい笑みを浮かべた。

「チョ〜面白い顔」
「な……なんで。どうしてここに」
「説明とかいるのぉ? ゲーム中に抜け出す、マナーの悪いプレイヤーを回収するためじゃない?」

冗談めかして、まるでモノのついでに寄った、みたいな言い方をするけれど。ここに来るまでの地図と列車の時刻表が、瞬時に頭を駆け巡った。諸々計算すると、どう考えても、――ここに居る意味が分からない。

「ここに居る時点で、半日潰れた」
「半日で解決すれば良いしさぁ」
「無理だよ」
「あんたが無理って言うなら、無理なのかもねぇ」
「貴方の負けになっちゃう、なのにどうして――」

分からない。
目の前で、私を見つめる彼が。何一つ……分からない。
初めて、そんな感情を抱いたような気持ちになった。
頭を活用できていない情けない私を、泉くんは父さんのように叱るのかと思ったけど、違った。

「あんたホント、子供みたいだねぇ」
「なっ!?」
「こういう時はさぁ、泣いて喜んで欲しいんだけど? 俺は、勝敗もプライドも捨てて、あんたを助けに来たってこと!」
「たすけに……」

泉くんの――ううん、泉のいう事が、いまやっと理解できた。理解、というよりも、心が先に強く答えを示した。泉がそれを察したのか、私に向かって手を差し出す。まるでワルツを踊る誘いのようでいて、野蛮な冒険活劇に誘う大きな手。

迷いがないなんて言いきれない。
死にたくない。人間じゃないって言われたとしても、命は惜しい。
でも――それ以上に、こう思った。

「私、泉たちのように生きてみたい」

もっと輝かしい生き方をする、善い人間として。
そう答えを口に出すと、泉は嬉しそうに頷いた。

「完璧な回答どうも。女としてはまだまだだけど、仲間としては一級品の答えだねぇ」
「えへへ。あ、でも……そのために泉に黒星つけて、悪いとは思うんだけど」
「今更、負けてもいいよ。あんたがいないと【Thief】の仕事も退屈だし」
「ライバルがいないとつまらないかな」
「そういうこと」

ライバル……それに関してはどうだろう。反抗すれば、残り二日しか生きていられないと脅された身だけど。

でも、今だけはこの幻影に酔っていたい。
怪盗が魅せてくれた、美しい夢を。

震えるほどにリアルな事件を、仲間と呼んでくれたひとの為に解き明かしてみたい。私にとってそれは、この世全ての輝きを集めたって足りない夢だから。

泉にそっと抱き寄せられ、抱えられた。今から、怪盗が盗むお宝役をこなすことになるらしい。離れないよう、ぎゅっと彼の背を抱きしめた。

悪い子にサンタさんは来ないけど。
怪盗なら、来てくれるらしい。