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Knights the Phantom Thief

Step.32 招かれざる客人

残り三日。
流石にこのままではまずいと思い、泉は単身、もう一度軍事施設に潜入した。

『モンスター』と言うからには、やはり生物兵器が妥当な線だ。そういった実験が行われている部屋や、実験後の動物が保護されている部屋にも行った。

なんというか、本当に――化け物と言われても仕方ないような、そんな動物もいた。馬ほどの大きさのネズミを見たときは、思わず叫び声をあげそうになったほどだ。――万が一にも、【Thief】のトップ集団である『Knights』に所属する自分がそんなことをするわけにはいかないが。

資料もある程度調べ、佐賀美の部屋も覗くことにした。

あの日、名前が言っていた『光り輝くほどにかわいらしい』の意味がようやく分かった。電気の消えた部屋で、確かに兎が蛍光色に光っていたのだ。

遺伝子実験。それが、佐賀美の専門分野なのだと改めて理解した。
昔からのイメージとの差異に、少々ショックを受けた気もするが。……でも、佐賀美がいまの泉の仕事を知れば同じことを思うだろう。

しかし結局、今いち『モンスター』らしき動物は見つけられないし、めぼしい資料もなかった。ため息をつきたくなったが、泉はそのまま口を真一文字に結んで、こっそりと施設から抜け出した。

どうせ協力体制なのだ、名前に『モンスター』は何者なのか聞くのも悪くないだろう。



と思って家に帰ったのに、待ち受けていたのは死ぬほど迷惑な来客だった。

「おお、瀬名くんじゃったかのう? いつも凛月がお世話になっとるのう」
「――なんで朔間さんが、こんなところに」

リビングのソファに、堂々と座っている侵入者が一人。名前を、朔間零という。これでも、【Thief】の中でレオと一、二を争うほどの実力者だ。――まぁ零は頭脳派、レオは肉体派という感じだが。

「なに、名前に招待されてのう。いつの間にこのような美しい婚約者を見つけてきたのじゃろう?」
「あんた、名前と知り合いなわけ?」
「まぁ、昔いろいろあってのう。……というのは冗談で、名前を長年【Thief】に勧誘しておるだけじゃ。中々振り向いて貰えなんだが、瀬名くんが射止めたならば、我輩の長年の野望も『ワンチャンある』というやつじゃろうか?」
「……あのねぇ、分かってると思うけどさぁ。婚約者とか、それ演技だから。ってか、よくくまくんと喧嘩にならなかったねぇ、こんなとこに来て」
「凛月には別の仕事を言い渡しにきたのじゃよ。この付近に、少しきな臭い人間が居ったのでのう。お掃除の時間という具合か」

――どうやら、凛月は暗殺の仕事が入ったため、彼の忌み嫌う兄と鉢合わせなかったらしい。自分の実家で暴れられなくて良かった、と泉は今度こそため息をついて椅子に座った。

「ねぇ、名前は今どこにいるの」
「すれ違わんかったかえ」
「は?」
「今は、若い燕とデートしておるぞい? 大変じゃのう、お婿さんも……♪」
「若い燕? ……まさか、かさくんのこと!?」

朔間はくつくつと悪役っぽく笑った。まさか、司までここに来ているとは思わなかった。
いや、今思えば、司は妙に名前に懐いていた気がする。とすれば、彼女と仕事ができるチャンスを逃しはしないだろう。

まったく、子供のくせに色気づいちゃって……と泉は渋い顔をする。

「かさくんは、いつ此処に来たの!? ていうか、まさか今度は二人で研究所に潜入してる訳?」
「つい三十分前じゃな。名前が朱桜くんを駅に迎えに行って、そのまま直行したのじゃよ。我輩は、研究施設の偉い人に挨拶してすぐ、此処に帰宅じゃ。老体に、長旅の後すぐに仕事をしろとは無茶じゃろう?」
「いや、何勝手に根城にしようとしてんのぉ? くまくんもアンタもさっさと宿探して出て行ってよねぇ?」

基本的に、男を泊めてやる趣味はないので。
そういう意図を込めて零を睨んだが、彼はひらひらと手を振って笑うのみ。

「我輩のような美男が宿に泊まったら、目立ちまくるのでなぁ」
「自分で言っちゃうとか、チョ〜うざぁい」
「事実であるが故に、どうしようもないのう。名前にも言われたじゃろう。調査の際、大敵は悪目立ちすることじゃと……」

なんでそれを知っているのだろう、この男は。相変わらず、掴み切れない男だった。

しかし、名前が帰ってこないと始まらない。仕方がないと思いながら、泉が持ち帰った情報の山を、零の前にどんと置いた。

「これ。あんたもどうせなら、推理ゲームに付き合ってよね」
「――ふむ。仕事なら断ったが、ゲームなら断れぬのう……♪」

紅い目が、魔性の輝きを湛えて細められた。
名前とはまた違った、知性を込めた視線だった。