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Knights the Phantom Thief

Step.32 視察

「お姉さまも、『Monster』を見たのですか?」

司の問いかけに、名前はどこか顔を青くして頷いた。この利発な女性が怯えていることに、司は少し驚いたと同時に、何やら不穏な欲情のようなものを感じてしまい、慌てて首を横に振って煩悩を払った。

「ええ……正直、怖かった……」
「いったいどのような見た目でした?」
「真くんの言った通り。大きな空洞のような目、黒い体で、四足歩行だった。あと、体が光ってた……」

あの名前が言うのだ、事実なのだろう。今から『視察』と称して入る施設に潜む化け物に、司も思わず息をのんだ。

「――という訳じゃ。我輩の代わりに、こ奴らを施設内で歩き回らせておくれ」

現在、この基地で一番地位のある人物――確か中佐だ――に、中を調査する許可を強請っているこの男。彼は朔間零だ。

先日、彼の弟である朔間凛月が、勝手に彼の身分証明カードを盗んで使用した件で、『Knights』に彼が相談しに来たのだ。その時、レオは単独任務で不在、泉は『あの女』の事件で不在、凛月も何故か泉と共にいる――という状況だったので、嵐と司が対応した。

ひとまずカードを回収したいと言われたので、司が回収すると申し出たのだが。たまたま、泉が『あの女』と一緒に仕事をしているという話題になり、何を思ったか朔間零は「我輩、やっぱり自分で受け取りに行きたいのう。供をしておくれ、騎士様」とぬかしたのだ。

なぜ魔王のお供をしなければならないのだ、と司は文句を言おうとしたが、嵐がなぜか了承してしまったのだ。そんなわけで、残る『Knights』のメンバーも、朔間零同伴で○○町に向かうという状況が生まれてしまったのだった。

「じゃあ聞かせてもらうが、昨日の役人は何だったんだ」

中佐はかなり苛立った様子で、しかも乱暴な口調で問いかけた。零は怒ることなく、さらりと返答。

「前日調査じゃ」
「はっ。三十分しかしない調査があるのか? 役人もずいぶん手抜きだな」
「一時間も二時間も調査があったときは、不正があった時じゃ。おぬしらの首が飛んでおると思うがよいぞ」

厳しい顔の軍人に対しても、一歩も譲るところを見せない零。普段のおじいちゃんっぽい雰囲気はどこへやら、今は冷血漢の様相を纏っている。腐っても【Thief】を代表する男ということか。

中佐も少し怯んだのか、舌打ちをした後に、通行許可の名札のようなものを司と名前に投げてきた。

「はっ、いきなりこんな田舎の研究所になんの用なんだか。あれか? お宅らも観光で『モンスター』を探しにきたのか?」
「あら、見たことあるのかしら」

その皮肉の言葉に返事があると思っていなかったのか、中佐は少し面食らったような顔をした。

「ジョークよ。見たのなら教えてくださる? きっと中佐さんさえビックリの化け物ね。大きな目、黒い肌に四足歩行。体も光ってるかも」
「下らん!」

顔を真っ赤にして、中佐は扉を思いっきり閉めた。肩をすくめた零と、くすくす笑う名前が、なぜかとてつもなく悪辣な雰囲気を持っている気がして、司は不思議な気持ちになった。