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星のない日の話をしよう 

「千夜お姉さまは、歌がお上手でいらっしゃるのですね」
「え。そう?」
「はい!」

キラキラとした目で私を見つめてくる、新一年生にして『Knights』の新メンバーである少年・朱桜司くん。
今日は私が彼にマンツーマンでボイストレーニングをする日だった。泉と嵐、それから凛月は、防音練習室の真ん中の方で自主練的にダンスをしたり、新譜をイヤホンで聞いたり、……あるいはお昼寝をしたり……と、相変わらずの自由っぷりだった。

自由人ばかり相手にしていたので、司くんみたいに真面目で一生懸命な子の相手はずいぶん久しぶりな気がした。水を与えればすぐに吸収する土のように、すぐに練習をモノにしようとする彼は見ていて応援したくなる健気さがあった。

「あと、音域がとても広いと感じました! 私や先輩方の歌うような音程でも、美しく正確に歌い上げていらっしゃるので、とても感銘を受けました! Marvelousですね!」
「あ、ありがと。昔、練習したの」
「なるほど。……確かお姉さまは、軽音楽部に所属していらっしゃいましたね。そこで練習なされたのですか?」
「うん、まぁそうなるね」

男の音域を出せるようになったのは、昔所属していた演劇部の――というか渉のおかげではあるが。歌の練習と言われれば、零さん、ひいては軽音部と言われても間違いじゃない。

「それだけが理由じゃないでしょ〜?」

背後からシニカルな声が飛んできた。振り返ると、泉が意地悪く微笑んでいた。

「うげっ! いずみん! 趣味は後輩いびりであって、同級生いびりではないでしょ!?」
「あんたも、そのチョ〜ダサい俺のあだ名を撤回してくれない?」
「他にも理由があるのですか?」

無情にも、泉の余計な一言が、勉強熱心な司くんの好奇心に火をつけてしまった。やめてください、(それを追及されると)しんでしまいます!

「そうだよぉ。こいつはねぇ、俺たちに内緒で……」
「わーわーわー!」
「ちょっと、うるさいんだけどぉ?」
「泉のせいですっ! これは正当防衛!」
「……ねぇ、何を騒いでるの……? 俺の貴重なお昼寝タイムが……台無し……」
「あらあらあら、面白い話を持ち出してきたわねぇ、泉ちゃん?」

私の大きな声を聞いてか、寝床から凛月がもぞもぞと出てきて、鳴ちゃんはイヤホンを外して楽しそうに私と腕を組んできた。泉はあの話だよ、五奇人の……とか意味深長に司くんの前で発言した。それで凛月と鳴ちゃんは納得し、更に追撃するように言葉を重ねた。

「ああ。千夜が、俺たちを置いて兄者に浮気したときの話ね。俺、その話は地雷なんだけど……?」
「うふふ、アタシは好きよぉ、あの話。あの場に行って、この目で見られなかったのが、と〜っても残念」
「浮気とか人聞き悪すぎだし! 第一、あれはリッツのお兄ちゃんに振り回されただけであって……!」
「凛月先輩のお兄様? たしか『UNDEAD』の……。むっ、彼がお姉さまに何か無体を働いたというのですかっ!?」

忠犬よろしく、司くんが厳しい顔をして私を見てきた。正確には、零さんに対する顔なんだろうけど。

いやいやそういう訳では、とヘラヘラ笑ってごまかそうとした私を見透かすように、泉が言葉をかぶせてくる。

「そうとも言えるかもねえ? だって昔の千夜は、俺たち『Knights』の為に、五奇人と渡り合おうと、あんなことやそんなことをねぇ……」
「そうねぇ。あんなことやそんなことを……いやん、千夜ちゃんのバカ!」
「俺たちの為にあそこまでしなくても、良かったかもねぇ……♪」
「ちょ、ちょっと皆! なに適当言ってるのよ!」

ぽかぽかと泉の背中を叩くけど、まったく効いてないのが辛い。君たち、まだその話を根に持ってたのか……!? 結構粘着質だな、それでも爽やか系の騎士様か! 君たちのお姫様たちが泣いてるぞ! と、どこの立てこもり犯に叫んでいる警部だと言われそうなセリフを脳内で叫んだ。まぁ実際、泉とか素とファンへの対応が180度くらい違うけどネ。

「Jesus! お姉さま、あの魔物どもにいったい何をされたのですっ!?」
「いや、何も……ちょっと着せ替え人形にされたり、パシリにされたりしたくらいで……」
「なっ……私の敬愛するお姉さまを、使用人扱いですかっ!? 許せませんっ、司は断固抗議いたしますっ!」
「ああああ、待って! 行かないでー!」

防音練習室から飛び出そうとする司くんの背中に抱き着いて、無理やり止めようとする。そんな私の姿を見て『Knights』の皆は楽しそうに笑っていた。

ほんとこいつら、と思ったけれど……まぁ、この笑顔の為にやってきたことと思えば、この記憶も悪いモノではない。なんて、ちょっと思ってしまったのだった。

まだ超新星を見なかった日。ありふれた、されど夢のような現実の話。
願うべくは。
これからも私は、スポットライトの輝きは舞台袖で見たい――ということだ!


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