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差し出されたカンバス 

「動くな。じっとしていろ、集中が切れるのだよ」
「うっ……」

――とはいえ、いい加減寒いのだけど。
キャミソールとパンツだけ、あと男装用のサラシはあるけれど……ともかくそれだけの格好で、既に十分経過している。宗は服のことを考えるとき、時間の経過を忘れるほど考え込むから、正直何時までこの状態なのかわからない。

「肩のラインと腰のラインを相殺するデザインか。となるとブレザー型か、あるいは軍服型か……相応に着こまねばならないね。かといって衣装を厚くしすぎると、少女の体には負担が生じる……」
「さ、寒い……もう服着ていい?」
「……む? ……ああ、構わないよ」
「今気づいたのかっ!」

まったく、芸術家の集中力って恐ろしいネ。
もし私のこの位置に居るのが、宗に恋しているどこかの女の子だったら、女子としての尊厳を粉々にされるまでの発言である。服着てても裸同然の格好でも一緒とか。私だったから良いものの……。

という忠告3割苦情7割の意見もそこそこに、シャツとズボンを取りにロッカーへ向かう。

手芸部の部室は内側からもカギをかけられるシステムだ。かつ、カギは宗しか持っていないので、うっかり誰かが扉を開けることもない。安心して下着姿で部室内をうろつける訳だ。まったく嬉しくはないが。

シャツに袖を通していると、宗がこちらに歩み寄ってきた。

「ああ、そのまま着替えていて構わない」
「んー? ウイッグの色は黒で良いんだけど」
「いや。衣装の色とうまく合うような色を探しているのだよ。どうせ顔や体つきから変えてしまうのだから、髪色も変えてしまえばいい」
「ああ、そういうこと」

本当に生き生きとした顔で、サンプルらしき髪の一束を次々に押し当ては変えていく彼に苦笑した。影片くんもなずなくんはアイドルなので、そう簡単に見た目は変えられない。よって彼の芸術の発露は衣装のみに現れる訳だが、今回、私は何でもありだ。むしろ、原型から変われば変わるだけ良い。

この状況は、例えば画家に真っ新なカンバスを渡し、自由に描いていいと言うようなものだ。宗にとっては、中々ない機会なのだろう。

だったらまぁ、自由に楽しんでもらえればいいかなぁ、とか思う訳で。
いつも難しい顔してるんだから、こんな時くらい楽しそうにしてくれればいい。

「ねぇ、宗」
「なんだ」
「いま、楽しい?」
「はぁ? ……まったく、理解に苦しむのだよ」
「あ痛っ!」

ぺしん! と頭を軽くはたかれた。もう、何すんだよーと唇を尖らせて宗を見上げると、

「楽しいに決まっている」

にやり、珍しく悪戯っぽい笑顔を浮かべてくれたのだった。


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