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帽子屋のたくらみ 

絶対におかしい……。

「おい、ふざけてるのか? もう少し声量あげろ」
「ちょっと待って、零さん」
「ああ、なんだ? 泣いてもやめねえからな。気合い入れろ」
「いや、なんで熱血部長のノリなの! そもそも私、軽音部に入った記憶がない!」

なんというデジャブ感。宇宙人にアブダクションされてた方がまだ人権を感じられていいよね。五奇人の辞書に『選択の自由』という文字はないのか、そうなのか。

「いや、別に入れてはね〜ぞ」
「えっ? あっ、お、おおう」

思わぬ真面目返答に、ツッコミのノリを思いっきり削がれた。なんだ、零さんは意外と常識があるじゃないか……。

「いま失礼なこと考えてやがったな?」
「ははっ、気のせいですよ! でもじゃあ、なんでさも部員のように地獄のレッスンを受けてるんですかね」
「そりゃあ、千夜が夏目のユニットに入るからだろ」
「なるほど……」

はい???
え、今この人何語喋った? 火星語とか?

「あ、正確に言うと、千夜のユニットに夏目が入るんだがな」
「そこの訂正を求めたわけじゃないです! てかそうなんだ! 私がリーダーなんだねぇ、じゃない! い、いいい、いまなんてっ」
「あー? だから、夏目と組むのは千夜に決めたってことだ」

しごく簡潔な、さも当然といった回答。
なので私は、思わず携帯で日付の確認をしてしまった。確かに、約束の期限は明日だ。これは零さんの渾身の時差ボケ的なアレだろうか。留学済み生徒の洒落たジョークか。そうだと言ってほしい。

「言っておくがジョークじゃない。あれこれ考慮したら、結局これが一番きれいに後片付け出来るってだけだ」
「後片付け……?」
「初めから存在しない男子生徒と組ませれば、誰にも迷惑はかからねえ。あとからそいつが呼び出されて、俺たちについて余計なことを生徒会から問い詰められることもねえ。ほら、面倒ごと全部クリアだろ」

得意げに笑う零さん。いや、いやいや。理論上はあっているかもしれないけど、それでいいのか!?

「で、でも、いきなり素人の私と組ませても」
「だから、その辺は俺と渉でカバーしてんだろ〜?」
「は? …………」

演劇部と、軽音部。
ダンスと表現と、歌。

…………まさか。

「零さん」
「なんだ?」
「初めから、私を、夏目くんのパートナーにするつもりだったでしょ…………」
「あはは、ようやく気付いたか。おまえ、もう少し頭の回転早くしたほうがいいんじゃね〜の? 悪いやつに騙されるぞ〜?」
「うぎゃっ!」

がば! と子供を抱き上げるように後ろから抱え込まれる。ち、ちくしょう……完全にバカにされてる。これはひどい。が、確かに渉の段階で疑わなかった私もどうかしていた。

「もう、抱きついてこないでよ! 第一それでごまかそうとしたって駄目だからね!」
「いや、でもバカなほうが可愛いからな……悩みどころだな」
「話聞こうか!!」

こうなったら零さんは絶対引かないからな……。人生諦めが肝心、パート2を発動しなきゃならない状況に等しい。
私が押し黙って拗ねる以外の選択肢を模索しかねていると、零さんがフニフニとほっぺをついてきた。拗ねてません。まだ。

「まぁ、おまえは歌だけはうまいからな〜。月永くんの楽譜を見て、正確に音を出すことだけは出来てんのは分かる」
「え、そうですか?」
「ああ。ちゃんと歌えてねえと、指摘すんだろ? 月永くんは」

そういえば……泉が歌の練習をしているとき、レオは「半音低い」とパッと指摘していた気がする。私もレオに「これ歌ってみて!」と言われたことがあるが、そういえば「音が違う」と言われたことはない。

「知らないうちに月永くんに鍛えられてたって具合だな。おかげで、歌の基本は飛ばし飛ばしで十分だ。ほとんどは渉のレッスンに付き合うだけで良い」
「う、うーん……夏目くんが納得するなら、私が協力するって言うのも悪くないけど」
「心配すんな、もう説明済みだ」
「くっ……抜け目がない!」

完全に外堀を埋められた。
もう逃げられない。いや、実際相手が見つからない以上、私が零さんの約束を果たすためには……これしかない。

「で、ここでおまえはこう言うはずだな」
「?」
「『私を軽音部に入れて、レッスンしてください、零さん』」
「……」
「ほら、お口開けねーのか?」
「……」

やっぱり、選択の自由という言葉はないらしい。

▼ ちよ は けいおんぶ の ステータスを てにいれた!


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