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Eccentric Night 

「で、零さん。これはいったいどういうことですか」
「ああ? 見たまんまだろ」

見たまんま。

仮想大会もかくやのコスプレ衣装。しかも、どう考えても不思議の国のアリスのキャラクターたちだ。それを……夏目くん以外の五奇人が着ている。顔の見えないように、包帯を巻いたり仮面をつけたり帽子を深くかぶったり、何らかの配慮はしているよう、だが……。

「いくら何でも、千夜は初めて人前に立つしな。しかも、普通科の生徒。バレたら校則違反で即アウト。生徒会の阿呆どもが何か仕掛けてこねえとも限らねえ……だから」

零さんがいつも通り淡々とした説明を加えていると、横からノリノリの渉が飛び込んできた。

「私たちがバックダンサーとして、ボディガードをいたしましょう! ああ、初めての経験です! まさにAmazing……☆」

そう、バックダンサー。
五奇人が、私と夏目くんのバックダンサーをすると買って出たのだ。

生徒会の目はある。ユニットを組めば間違いなく出場停止だっただろうが、バックダンサーは立派な『校内アルバイト』だ。ユニットを組むわけではないので、生徒会の公式記録にも名前は上がらない。パンフレットにも、私の偽名と、逆先夏目の文字しか載らないのだ。彼らは堂々と、ステージの上で私たちを補佐できる形となる。

まさに体よく、ルールの合間を縫う。五奇人らしいやり方だった。
……とはいえ、彼らをバックダンサーにするなんて状況は、ちょっと信じられないのも事実だ。

「そりゃ、渉みたいな器用大富豪が背景なんてありえないもんね……」
「ウフフ。お褒めにあずかり恐悦至極……けれど、脇役をこなせぬうちは真実の役者とは言えないでしょう。今日は学ばせていただきますよ?」

ぎらりと目を輝かせる渉は、なんというか凄みがあった。これがステージ前の彼の姿なのか。いつも『Knights』のライブ前しか見ていなかったので、他のアイドルたちの姿を見るのは新鮮だった。

「おさかなさんの『いしょう』はないのですね……」
「仕方ないだろう。原典を詳しく読めば出てきたかもしれないが、俗物どもが一発で連想できる登場キャラクターでなければならない」
「うう……でも、しゅうの『いしょう』をきれるのは、しあわせですね……♪」
「カカカカ、当然なのだよ。千夜と逆先のものは特に精魂込めて作ったのだが、やはりよく映える」
「いめーじからーは、『あか』と『しろ』ですね」
「ああ。逆先の赤髪と、うまく映えるように考えて構成したのだよ。結局白のウイッグにして、ハートのトランプというテーマにうまく馴染むよう調節した」

するりと、宗の指が私のつけているウイッグの一房を掬った。
衣装も統一して赤と白で組んである。ハートの女王とハートの王のイメージも取り入れている為、肩章に金色が入っていたりと、細部まで細かく作られているのだ。

そして、一番特筆すべきなのは……メイクだと思われる。
鏡を見て本当にびっくりしたものだ。私の顔をどういじくったら、こんなに本人とかけ離れた美少年が生み出せるのかと。……本当に、彼は芸術と名の付くものには一切の妥協を許さないらしい。私は彼にとっての素材、あるいはカンバスとして役に立てたなら、何よりだが。

「宗がここまでお膳立てしてくれた以上、美少年らしく振舞わなきゃね」
「当たり前だろう。僕は作品を台無しにされるのが、一番我慢ならないのだよ」
「宗にいさん、あまり脅すのは得策じゃないヨ。千夜ねえさんには緊張してほしくないからネ」
「夏目くんこそ、大丈夫?」
「平気だヨ。むしろ、最高の気分だネ♪」

そう言った夏目くんの表情は、本当に生き生きとしていた。そこに虚勢は存在していない。五奇人の先輩たちと、一緒にステージに立てる……その喜びでいっぱいなのだろう。

「はは、かわいい奴だなぁ。だが、羽目を外しすぎんなよ?」
「わかってるよ零にいさん。一番千夜ねえさんの近くに居るのはボクだからネ、きちんと警戒態勢は怠らないようにしておくヨ」
「ん、良い子だ。千夜、お前は逆だな。いつも通りにしてろ」
「はいよ。どうせ素人なんだから、他人の心配してる場合じゃないしね。私は私なりに、自分の目の前に全力を尽くすよ」
「ああ。心配しなくても、その自然体でいれば平気だろうよ。可愛い……っつったら、今は失礼か」

それに普段の姿が一番可愛いしな、とかさらりと言っちゃうあたりが本当に零さんらしいというか何というか……。黒髪フェチの名は伊達じゃないね、なんて言ったらデコピンされた。

「うう、分かってますよぉ……零さんは黒髪フェチじゃないって」
「じゃあ言うんじゃねえ」
「そうだネ。零にいさんは、千夜ねえさんだから猫かわいがりしてるだけだヨ……♪」
「夏目くんが一番可愛いと思うの」
「なんでボクが可愛いって話になっちゃうノ!?」

心外だナ、と頬を膨らませる夏目くんは可愛い。

「『Queen of hearT』さん、そろそろ出番です」
「あ、はいっ」

スタッフさんに声を掛けられ、返事をする。渉に鍛えられた低い声もばっちり使えている。何もかも、最高の状態だ。

【次は、今回初登場となるユニットです! 不思議の国のアリス、その中でも『ハートのトランプ』たちをイメージした、一年生と二年生のコンビユニット、その名も『Queen of hearT』! かわいらしい見た目の二人組という情報ですが、お手持ちのパンフレットをご覧ください。この背徳的な歌詞を、彼らが歌うのです。まさにアンバランスな魅力を持つと言えましょう……!】

舞台袖でそれを聞いていた夏目くんが、拗ねたように唇を尖らせた。

「ちょっと、誰だイ? 千夜ねえさんが可愛いって情報はともかく、【逆先夏目】まで可愛いで括って紹介文を出したのハ」
「煽りは少々過激なほうが受けますからねぇ! ご愛敬ですよ☆」
「渉にいさん〜!」
「ま、まぁまぁ。もう始まるんだから、夏目くんもこうなったら腹をくくろう? 可愛いと見せかけて、夏目くんの色気を醸し出してギャップを狙う! みたいな方法もありなわけだし」
「ん……それもそうかナ……、確かに人の裏をかくっていうのは良い考えだネ」

にやりとあくどく笑った夏目くん。確かに彼は、一概に可愛いとは言えないかもしれない。この戦略家的なところが、彼の魅力でもある。

「じゃあ、そういう方針で行こうかナ」
「うん。頑張ろうね、夏目くん」
「そうだね。
千夜ねえさんとステージに立てるなんて、思ってもなかったけど。この幸運に感謝して――二人で歌おう」

ここで魔法にかけようって寸法だろうか、それとも素直な気持ちを出してくれたのか。夏目くんは普通の喋り方で、自分の想いを伝えてくれた。

彼が微笑み、私に右手を差し出した。その手に、自分の手を重ねる。ゆっくりと、エスコートされるように、私はステージへと上り詰めていく。光の海に飛び込む寸前、彼は私の耳元に唇を寄せ、こう囁いたのだった。

「――奏でよう、ボクらのアンサンブルを」


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