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狼と女王様 

「あの、千夜先輩! 俺それ持ちます」
「晃牙くん」

軽音部室に零さんの指定した機材を搬入していると、ふいに声をかけられた。振り返れば、そこには伸びた襟足をくくった銀髪の少年――大神晃牙くんの姿。

彼は零さんの熱狂的なファンらしく、つい先日まではあの零さんが「なんかあの子怖い……」と言うほどの追っかけぶりを見せていたらしい。零さんが怖がる様子とか、何それ見たいって感想はさておき。

敬人曰く「あいつは認めた奴以外には生意気な態度だが……まぁ、生来が真面目なのだろう。なんだかんだ言いながら、本当に順守すべきルールは守るタイプの人間だ」とのことだから、私もそういう認識でいた。

しかし、これ全然生意気な態度なんかじゃないけど……まさか認めてくれているのか? まだ彼に何もしてあげられてないと思うのだが。

「あの、先輩。どうかしたんすか」
「あ、ええと……ありがとね晃牙くん。じゃあ、半分持って?」
「うっす。つか、全部持てますけど」
「いいのいいの。先輩ぶらせてちょーだい」
「っ〜! やっぱり朔間先輩の彼女さんは一味ちげえっ……! 最高に気前がよくてかっけえ!」
「はいっ!?」

抱えていた荷物を取り落としそうになったけど、なんとか腰を落として再キャッチに成功。あ、危なかった……零さんの楽器が。

いやそれよりだ。なんだ、その不穏極まりない役職は。

「零さんの彼女って……わ、私のこと?」
「はい! 朔間先輩が『俺の可愛い千夜に頼って構わねえから、適当に鍛えてもらえ』って!」
「あー……うん、あの人なら言いかねない……」

ペット感覚なのは別に今更責めないが、その感覚のまま他人に私を紹介するのやめて欲しい。ここに勘違いが成立している訳だし。

「晃牙くん、私はただ零さんと協定を結んでいるだけ、みたいな感じで……別に付き合ってないの」
「そうなんすか? でも、あの朔間先輩が認めた女の人なんすから、やっぱ尊敬できるっつーか」

ううん、むずがゆい感じがする。普通に照れる。
部室に入って、手を塞いでいた荷物をテーブルの上に置く。彼の荷物も受け取って、同じように積んだ。

「それに、男のかっこしてまで相棒を助けるとか、最高にロックじゃねえっすか」
「あはは、もう恥ずかしいよ……ありがとね、こ〜ちゃん♪」
「……? こ〜ちゃんって、俺っすか」

きょとん、とした顔でこちらを見てくる晃牙くん。つんつんした態度が目立つらしいけど、こうした自然体の顔はまだまだかわいらしいところを残している。

「そうそう。可愛いでしょ〜?」
「朔間先輩もっすけど、ちゃんと名前で呼んでほしいんすけど……?」
「あ、聞いた聞いた。わんこ、だっけ」
「俺は晃牙っすよ! こうが!」
「うんうん、こ〜ちゃん♪」
「うがああ! 千夜先輩までっ!」

うーん、可愛いなぁ。これは零さんが弄りたくなる気持ちも分かる。とはいえあんまりにも弄りすぎたら嫌われちゃうし、適度にやめておこう。

「うふふ。うそよ晃牙くん、意地悪してごめんね。優しくしてくれたから、ついなれなれしくしちゃって」

ちょっとしょんぼりした顔をすれば、晃牙くんはあわててフルフルと首を振った。

「べ、別になれなれしいとか思ってねえんで! むしろこのままで良いっていうか!」
「あ、本当? じゃあこれからもよろしくね、こ〜ちゃん」
「そっちじゃねえよ! 態度の方だっ!」
「あはは。晃牙くんこそ、慣れない敬語は使わなくていいからね〜」
「うぐっ」

ほんとに素直な反応ばかり返してくれるのが可愛くて、つい頭を撫でてしまう。ぐるる、と唸るような声は怒ってる時のレオに似てるけど、決して嫌そうな顔じゃないことだけは、違うかもしれない。


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