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舞台装置をがらりと変える 

ど、どうしてこうなった。

目の前に広がる古都の風景を見ながら、他人の通行の邪魔にならないよう、後ろに下がる。「実際にここから飛び降りて、生き残る可能性は85%ほどであったと言われています」という、清水の舞台から飛び降りるのをやめさせたいのかワンチャンあるでぇ……と思わせたいのか分からないガイドさんの説明が、向こうの方から聞こえてくる。

「え、えーと……どういうことかな、斑」
「んん? おっ、見てくれ千夜さん! このお守り、翡翠がきれいだぞぉ?」
「ほんと、レオの目の色みたい」
「ふっふっふ……しょうがないなあ! ママが買ってあげます!」

私服姿の斑が、巫女さんに翡翠のお守りを手渡した。あっという間に会計はすまされ、白い封筒にお守りが入れられて斑の手に戻ってくる。

「ほら、カバンにつけてあげよう☆」
「あ、ありがと」
「うんうん、もっとママを頼ってくれていいからなぁ! なにせ京都は、もう何度も来たことがある!」
「そうなんだ。私は修学旅行で一回きりかなぁ」

もはや追及しても答えは返ってこないと察し、諦めて彼の提供した話題に同調する。

そう。京都。
いま、日渡千夜と三毛縞斑は二人で京都に遊びに来ています。え、遊びに来たわけじゃないのかな? 良く分からない。

なにせ私は、金曜日の夕方ごろ突然斑に「着替えて、そこそこのお金を持って、駅まで来てくれ!」と言われた指示に従ったら、あれよあれよという間に新幹線に乗っていたのだ。

な……何を言っているのかわからねーと思うが私も何をされたのかわからなかった……! 誘拐よりももっと恐ろしいものの鱗片を味わったぜ……! とばかりの混乱だったけど、斑は特段説明をしてくれないのでした。なんでやねん(大阪のノリ)。

「いやぁ、京都といえば寺院巡りは欠かせないなあ! でもそればっかりじゃ女の子の千夜さんは飽きてしまうかな?」
「いや、お寺見るのは好きだよ。とりあえず金閣と銀閣行きたい」
「うんうん、千夜さんは好奇心旺盛だな! ママは嬉しいです! 最近は学院の雰囲気がすっかり内向きだからなぁ」
「あー、それは確かに……。ユニット制度が出来てから、仲間意識が強くなった分、自分たちのことだけ考えときゃいいって感じだもんね」

若干、自分にもブーメランだが。『Knights』だけでも助かればそれでいいなんて思っていない、とは言い切れない部分があった。そんな汚い考え、斑は嫌いなのだろう。彼はいつだって、大勢の人間を一度に見ているのだから。

そう思いながら彼の顔を覗き見ると、にっと太陽のような微笑みが私に向けられた。

「それが良いのか悪いのか。神ならぬ身ではわからないなあ? いや、わからなくていいよなあ。ただ俺は、千夜さんにも意見を聞きたかっただけだ。学院から遠く離れた場所で、『Knights』の影も形もない場所にいる千夜さんが出す答えを」
「私の?」
「そう。きみはこんなに可愛い女の子なのに、荒事に身を投じて、荒波を平気で渡り切ろうとしている。でも、余りにも潮風に当たりすぎたら具合が悪くなるぞ?」
「ふふ。心配してくれてるんだね」
「レオさんに似て、千夜さんは剣呑な争いが嫌いだからなあ。その割に、二人とも戦争が上手いからいけない」

労わるように、大きな掌がわしゃわしゃと私の頭を撫でた。温かい。ママというか、兄のように感じるのは私だけだろうか。

「可愛くはないけど、女の子なのは事実だからね。うん、そうだね……あんまり荒事に首を突っ込まないように気をつける」
「おやおやあ? 信じていないな、俺は本当に可愛いと思っているぞ? ほら、零さんもよく言ってるだろう」
「零さんはほら、ペット感覚で可愛いって言ってるだけだから」
「ぶはっ、ぺ、ペットだってぇ? 千夜さんは相変わらず面白いなぁ!」

何がツボに入ったのか、斑はけらけらと腹を抱えて笑った。そ、そんなに変な発言だったかな? 

あんまりにも大きな声で笑うので、他の旅行客に奇異の目で見られて恥ずかしい。ぶすーっとむくれ顔で彼を見上げていると、ご機嫌とりのように今度は頬を撫でられる。犬か、私は。

「何をむくれてるんだ、千夜さん?」
「私たち目立っちゃってるから、恥ずかしいの!」
「んん? 俺たちがか? 夢ノ咲に戻ればいざ知らず、けれども今の俺たちは完全に一介の旅行客だろう?」

ええい、何にもわかっていない。今度はこっちから斑の頬を両手で掴んでひきよせた。

「斑は自分が高身長のイケメンであることをもっと自覚すべきだよ! すっごい目立ってる!」

ばん! と至近距離で言い放つ。これでさすがの斑も納得してくれるだろう。おお、案の定びっくりした顔してる。

「……千夜さんこそ、いろいろ自覚したほうがよさそうだなぁ……」

何を?
今度はこっちがきょとんとした顔になる番だった。けど斑はやっぱり説明なんかしてくれず、私の手を取って清水の舞台から降り始めた。……堅実な徒歩で。

「まあ、現在を憂うのはこの辺でおしまいだ! 旅の恥はかき捨てともいうんだ! 目立とうが目立つまいが、めいっぱい楽しまなきゃ損だぞお☆」
「そうともいうけど……ううん、まあいいよ。で、金閣連れてって! 金閣!」
「ああ☆ 騎士がいない今は、俺がエスコートしてみせよう!」

パチン、と刺さるようなウインクが飛んできた。うちの騎士たちよりよっぽどキザなこと言うのね、と言って笑って見せた。


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