▼ エピローグ
結局、【フルール・ド・リス】で運悪く遭遇してしまったのは三年生のごく一部だけだった。被害は最小限に抑えられたし、まぁこれでよかったのだ。
一応、バレていないかの確認を兼ねて司くんに、ライブが終わってすぐLINEを入れてみたら、少し時間が経ってから嬉しそうな文体で
『花の乙女、Flower girlからお花をいただいたのです!』
と返信が。おそらくは私の花籠にあった残りの花を、ちゃんと泉が『Knights』の下級生に届けてくれたのだろう。喜んでくれて良かった、と思いながら返信を返し、その日の疲れもあってか、すぐにベッドで眠ったのだ。
――それが昨日の顛末。
「お姉さま! どうして司に、この格好を見せてくださらなかったのですか!?」 「そうよ〜! 居るなら先に言ってちょうだいよぉ、アタシこの格好の千夜ちゃんと恋バナしたかったのに〜!」 「ふーん。『王さま』とセッちゃんには会って、俺には会いに来なかったんだ。もう絶対許さないから、吸血確定」
だから、彼らの手にしているその『写真』が理解不能なのだけれど!?
「な、ななな、なんでそんな写真を!?」
おわかりいただけただろうか。その写真に写っているのは、完全に死角、もしくは遠方からズームで撮られたのであろう、自然体でお花を差し出している私の姿だったのだ――!
解せぬ。
「帰りに、お土産屋に寄ったのです。そこで売店の売り子さんに『素敵なフラワーガールの写真はいかがですか?』と尋ねられて……」 「……その人、男?」 「ええそうよぉ。夢ノ咲に居そうな感じの美少年だったけど、司ちゃんより年下にも見えたかも」
確実に従弟の仕業です、本当にありがとうございました。
あ、あの鬼畜従弟……! 絶対、『Knights』の皆に渡すためだけに写真を撮ったな――!? とLINEで聞いてもいいけれど、どうせ『ライブ出演者へのサービスまでがビジネスです』とか言ってスルーされそうだ。無駄な労力を使うのはやめよう。
それに従弟に怒りたい気持ちはやまやまだけれど、下級生に隠していたのがバレたので、今の私は怒るより謝らなければいけない感じだった。だいたい従弟のせい。
「あ、あのね……だってこんな格好、恥ずかしくてみんなに見られたくなかったから……ごめんなさい……」 「こんな『素敵な』恰好の間違いでしょ〜? もうっ、ダメじゃない千夜ちゃん! お姉ちゃんに嘘つくなんて、ショック〜♪」 「ほら千夜、こっちにおいで……♪ 痛くないよ、大人の階段上ろうね〜?」 「ふ、二人の言葉が怖い!」
じりじりと距離を詰めてくる二年生組。捕まったら絶対ふりふりの服着せられそうだし、吸血される!
「まっ、つ、司くん助けて……」 「もしもし? ええ、そうですね。あの会場の衣装を一着下取り……はい、日渡千夜さんのものを」 「嘘やろ工藤!!」
何やらスマホを耳に当てて不穏な通話をしている司くん。希望などなかった。迫ってくる凛月と鳴ちゃんに、いよいよ観念しようとしたその時、背中にどすん! と衝撃が走った。
「おわっ!? れ、レオ!?」 「うっちゅ〜☆ おまえらなにやってんだ、鬼ごっこか! それとも高鬼か色鬼か? いいないいな〜、おれもやる!」 「はぁ〜? ここは幼稚園じゃないんだから、んな訳ないでしょ……どうせまた千夜がやらかしたんでしょ」 「泉まで酷い!」
抱きついてきたのはレオで、彼の後ろから現れたのは泉だった。今日は泉が、レオを捕まえてきてくれたらしい。
「何もしてない! 【フルール・ド・リス】で……!」 「……ああ、内緒にしてたことで怒られてるわけぇ? 自業自得でしょ〜、俺たちに内緒で花売りなんてバイトするから」 「そうそう! 心配しなくても、ちゃ〜んとおれたちが養ってやるのになぁ! わはははは☆」 「何気にすごいこと言ってるわよぉ、『王さま』」 「セッちゃんも何か言わないと、インパクト薄いよ〜」 「Leaderは『おれたち』と仰いましたから、瀬名先輩はともかく、私も頭数に入っていますよね? お姉さまを養うことに関しては自信があります」 「財力的な意味では司くん一強だろうね! ってそういうことじゃないよ!」
ええい、話がすごい勢いで反れていく。ここ最近、結構連帯感が出てきたと外部からも評判だったけれど、やっぱり本来の皆は自由人なんだよね……。
まぁ、私も『Knights』のこういう雰囲気が好きなんだけど。
「なんか話が養うとか壮大な方向にいってるけど……別にそんなご大層なことしてくれなくていいからね? 私は、みんなと一緒に居られるだけで十分楽しいから!」
さすがに、『Knights』のヒモとして生きていきたくはないので。 そう思ってはっきりと宣言すると、みんなも嬉しそうに顔をほころばせた。
「まぁ目標としては、千夜ちゃんを養えるくらいの人気アイドルになる〜ってところじゃないかしら?」 「そうですね! 敬愛すべき女王陛下に栄光と繁栄を捧げる、Top idolにならねばなりません!」 「そうそう。千夜の一人や二人、一生面倒見れるだけの『ユニット』になればいいってことだよね〜……♪」 「私は二人以上に増える予定ないからね!?」 「くまくんのは物のたとえでしょ〜? ま、養うとかそんな楽させないから。一生俺たちの為に、バリバリ働いてよねぇ?」 「むむむっ! セナが千夜にプロポーズしたっ!?」 「あらやだぁっ、泉ちゃんったら『一生傍に居ろ』なんて大胆〜!」 「してない言ってない!!」 「あはは、もう二人とも! 泉に迷惑かけちゃダメでしょー?」
花の騎士に花の乙女。 たまにはああいうのも悪くはない。 けれどやっぱり、こういうくだらない日常ありきの、非日常だから。
これからも沢山、聞きなれたアンサンブルを聞かせてほしい。ずっと一緒に。
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