事件の再現実験を終えてから、二人が話す姿を綾乃は遠目から眺めていた。
湯川はいつもの調子で話しているが、内海は違うようだ。声色も高く話す口調も早い。明らかにソワソワしていた。
いつ渡そうか考えているのだろうか。内海の気持ちを考えてると自分の持っている物を本当にわたしても良いものかと疑問に思ってしまった。
「それじゃあ、あたしはこれから警察署に戻って、今の実験の実証を取ってきます!」
「それじゃあ」と言って内海は研究室から出て行った。綾乃も思わず研究室から飛び出して呼び止めた。内海が校舎から出ようとしたところでようやく追いつく。
「薫さんチョコは!?准教授に渡すんじゃなかったんですか?」
「え?――――あっ!!!!」
しっかりと握りしめているのに、内海は忘れていたという顔をして、綾乃に頭を下げた。
「ごめんね綾乃ちゃん!実はこれ草薙さんの分なの!!昨日は湯川先生って言ったけど、妹みたいな綾乃ちゃんに知られるのが恥ずかしくて。これから渡しに行ってくるのよ!それじゃ」
内海は早口で言うと、ウキウキと嬉しそう行ってしまった。
「なんだ、薫さんは草薙さんが好きだったんだ……」
今まで悩んでいたのが嘘のようにストンと気持ちが落ち着いた。
内海の悲しむ顔を見なくてすんだし、それに自分の気持ちを渡す事ができると綾乃は胸を撫で下ろした。
――私の気持ちって、何?……私、もしかして。
相手は自分より一回り以上年上で、教授になれるような権威のある人だ。ただの生徒の自分が好きになっていい相手ではない。
綾乃はふとよぎった考えを振り払うために頭を振った。
「ただ、お世話になってるだけだから渡すんだ。だから……」
そう自分に言い聞かせる。研究室に帰ってとっとと渡そう。最後に残ったチョコレートをあの人に渡すために。
そう思って急いで戻ろうとしたときだった。