「す、すごいすごいよ綾乃ちゃん!」
数時間後。内海は拝むようにできあがったカップ型のガトーショコラを見つめた。中には胡桃も入っていて、甘さもかなり控えてある。
どんな物にするか聞いた際に、内海がリクエストしてきたのだ。それを聞いてなんとなく誰にあげるか想像がついてしまった。
「ギリギリセーフですね」時計を見ると十二時を回って、既に十四日だ。あげるのは昼間だろうから日付はあまり関係ない気もするが。
内海はラッピング用の箱を取り出して丁寧に包んでいく。濃い緑色の箱。シックなもので、若い人にあげるものではなさそうだ。綾乃は意を決して内海に聞いた。
「誰にあげるんですか?」
「えぇ!?あ、あはは……」
内海は笑ってごまかした。別にあげる相手を聞いたところでなんとも思わないのだが、なんだかごまかされた事がひっかかる。
「――湯川准教授ですか?」
「はっ!?う、うん!!そうだよ!?先生にはいつもお世話になってるからね!」
顔を紅くして照れる内海を見て、内海の気持ちがわかってしまった。そして湯川が言った約束を思い出してしまった。
誰からも貰わない。彼はそう言っていた。だが、内海の物はどうなのだろう……
もし貰わなかったとしたら、それは内海の気持ちすらも無いものになって5#は少なからず嬉しかった。こんな風に相手の事を想って渡す人の事なんてこれっぽっちも考えていなかった。ただお世話になってるから、という事だけだ。
「これでよしっと。綾乃ちゃん本当にありがとう!もう遅いから送ってくね」
「あ、いえ大丈夫ですよ。一人で帰れますから」
「失礼します!」そういって綾乃はコートを手に取り逃げるように内海の家から飛び出したのだった。