こわいはなし #1
「ねえ聞いた?例の、子供を攫うオバケの話!」
ナマエは、噂話の類が好きだ。
その大抵はセブンスヘブンで飲んでいる時にどこぞの客から仕入れてくるネタのようで信憑性なんてあったものじゃないが、それを楽しそうに話してくるナマエはなんだか幼い子供のようで可愛い。
それでついつい、俺はいつも彼女の戯言に耳を傾けてしまう。
「子供を攫うオバケ?」
「そう!八番街で大騒ぎになってるらしいの。
大きな袋を引きずりながら、夜な夜な子供を見つけては攫って行って、攫われた子供たちもオバケにされちゃうんだって……!」
「ふ、そうか。」
「ちょっとクラウド!ほんとなんだってば!」
わかったわかった、とナマエの頭を撫でてコーヒーを一口啜る。
「だったらナマエも、夜には1人で出歩かない事だな。」
「ちょっと、私子供じゃないですけど!」
クラウドのばか!とナマエが拗ねて、愛用の銃を磨き始める。
冗談だ、と額に口付けると、またバカと言われた。
異変を感じ始めたのは、それから2週間ほど経った頃だった。
モンスター退治やアイテムの調達が主だった何でも屋に、少しづつ、人探しの依頼が増えた。
大抵が、実は家出しただけだったとか、少し道に迷っていただけだとか、そうやって中間報告に行った頃には勝手に家に帰って居るようなものばかりだったが、その日の依頼は違った。
「うちの息子が行方不明なんです。いつも門限は必ず守る子だったのに、どこにも居なくて……
お友達の家にもいないか探したんですけど……」
「うちの娘も、3日前から帰ってこないの。
勝手にどこか泊まりに行ってるのだろうと思ってたけど、3日も帰ってこないなんておかしいんです。」
そしてついにその日、俺は1人の子供も見つけることが出来なかった。
「ナマエ。」
ナマエには、何でも屋として3つの仕事を任せている。
ひとつは依頼の管理。
街の人から依頼を集めて、報酬を交渉する。
もうひとつは何でも屋の宣伝。
人々に何でも屋の評判を広めて、依頼を増やす。
そして3つ目。
それは、緊急時のサポート。
どうしても俺一人ではどうにもならない時に、背中を任せられるナマエは優秀な相棒になる。
「ん?なにー?」
振り返ったナマエに、彼女の銃を投げて寄越す。
「3つ目の仕事だ。」
「あいよ。」
ガチャっと弾をリロードして、ナマエはパソコンの前からたちあがった。
「……ねえ。」
「なんだ。」
「3つ目の仕事って聞いたんですけど。」
「ああ。」
「コレ、まじ?」
「まじだ。」
「まじか……」
白いワンピースに、可愛いリボンのついた麦わら帽子。
かわいいひっかけのサンダルは、小柄なナマエは、遠目で見れば子供に見えなくもない。
「……15歳くらいまでなら通せるな。」
「いつかあんたに女装でもさせてやる……!!」
とっくに暗くなった夜の公園。
ブランコにナマエは腰掛けて、不満そうに俺を見上げた。
作戦はこうだ。
子供に扮したナマエをエサに、人攫いのアジトを探る。
俺は後ろから追跡し、アジトに入ったところで合流、犯人を拘束し、さらわれた子供たちを解放する。
「銃は?」
「バッチリ。ここに。」
ナマエがおもむろにスカートをたくしあげて、太ももに掛けられたホルスターをぽんと叩いた。
「よし。本当にまずくなったら叫べよ。」
「相棒を信頼しなさいよ。」
「ああ、信頼してる。
でも彼女の心配くらいさせてくれ。」
「はいはい、どーも彼氏さん。」
こく、と頷きあう。
ナマエをひとり残して、俺は近場の木の影に身を潜めた。
それから、キィ、キィ、とナマエがブランコを漕ぐ音が聞こえ始める。
月夜にひとり、ぽつんと浮かぶナマエ。
……よっぽどあんたの方がオバケだぞ。
それを続けて、3日目のことだった。
ついに、そいつは現れた。