こわいはなし #2





「……ねえ、きみ、1人……?」

ふら、とナマエに近付く人影。
静かな夜、やつの声に耳をすませる。
男だ。そして、思ったより声が若い。


「お兄さん、だあれ?」

「お兄さんは、お友達をさがしてるんだ……きみ、ぼくのお友達知らない……?」

「お友達のおなまえは?」

「うーん……ここで話すと寒いから、あったかいところに行かない?
きみも、風邪ひいちゃったら、大変だし……」

「うん、いいよ。一緒にいこ。」



釣れた。

男とナマエを追って、バレないように背後をつける。


「お兄さん、おなまえは?」

「きみこそ、おなまえは何て言うの?」

「わ、私?私はね……えっと、クラコ!」


……俺の名前で遊んだな、アイツ。


その時、男が突然立ち止まる。
そして、ぐいっと後ろを振り返った。

なんだ……?
存在は悟られていないはずだ。


きょろきょろと周りを見回すそいつに、息を詰める。
すると男は、ナマエを残しておもむろに裏路地に歩き出した。

そして持ち出してきたのは……大きな袋。


"大きな袋を引きずりながら、夜な夜な子供を見つけては攫って行って、攫われた子供たちもオバケにされちゃうんだって……!"


……なるほど、こいつが。


「お兄さん……?」

「ああ……ごめんね、クラコちゃん……ちょっと…………寝ててね。」


その瞬間、男がナマエの口を押さえた。
手には何か布を持っていて、たちまちナマエがふらりと倒れる。
男はそのまま、彼女を袋に詰めた。
そして袋を引き摺って、またぼーっと歩き出す。


まずいか……!?
助けに行こうと出ていきかけた瞬間、袋の内側からナイフが小さく穴を開けた。
そこから少し手が出て、それが親指を立てる。

……なるほど、倒れたふりか。できた相棒だ。


俺はそのまま、2人のあとをつけた。






「……ただいま、みんなぁ……」


ギィィっと音を立てて開かれたのは、スラムの外れの大きな倉庫。
有名企業の名前が書かれているから、てっきりその会社の倉庫だと思っていたが……

開いている窓を一つ見つけて、そこから静かに中に忍び込む。物陰に隠れて様子を伺う。


俺は、目を疑った。



そこには、手足を縛られ口にテープを貼られたたくさんの子供たち。
怯えた目で男を見つめて、隅で肩を寄せあって震えている。

その中には、探してくれと依頼された子供も居た。


間違いない。ここだ。そしてこの男だ。



ガッと手近なダンボールを蹴り飛ばす。


「そこまでだ。観念しろ。」

「っ!!誰!?」

「あんたこそ、ここで何をしていた。」

「い……言わない!!」


仕方ない、分からせてやるしかなさそうだ。

背中のバスターソードを抜いて、男に構える。
その様子を見て、男はギリッと歯ぎしりをしてから徐にナイフを逆手に構えた。

……なるほど、戦いが初めてでは無いようだ。



じっと見つめあって、牽制し合う。


窓から流れる乾いた空気が、蹴り飛ばしたダンボールを転がしたのが合図だった。
がっと床を蹴った瞬間、男もナイフを振った。




決着が着くまでに、そう時間はかからなかった。
尻もちをつく男の喉元に剣の切っ先を突きつける。


「子供たちを攫って、何をするつもりだったんだ。」

睨みつけてそいつを見下ろす。

その後ろで、白い袋がもぞもぞ動いた。
ぴょこっと、ナマエが顔を出す。


「ひゅー、クラウドつよーい。」

「良くやった、クラコ。」

「もしかして怒ってる?」

「ナマエコって呼ぶぞ今度から」

「それは、かなり嫌かも。」


そのとき、ふっと笑った俺の剣を、男のナイフが弾いた。
くそ、油断した……!!

そいつが振り向いて、ナマエの方に駆けていく。
斬るか?でも殺してしまえば何も聞き出せない。



……まあいい。
俺はそのままバスターソードを背中にしまった。


「死ねえええ!!!!!」

男がナイフを持ってナマエに突っ走る。
次の瞬間、ナマエがそのナイフをいなして、そのまま彼女の肘が男の背中にめり込んだ。


がは、と、男が地面にぶっ倒れる。

「死ぬのはどっちでしょうな、バカめ。」


ナマエは男の背中に跨って、易々とそいつの両腕を後ろに縛り上げた。


「お前ら……お前らグルだったのか!!!」

「実は明るいところで見ると、私そんなに子供じゃないのよ。おにーさん。」

「殺してやる……殺してやる!!!」


喚く男の後頭部に、しゃがみ込んだナマエが銃を突きつけた。


「なんでこんなことしてたの?」

「言うわけないだろ!!」


かちゃり、とナマエが引き金を引く。
その音に、男はあっさりとすくみ上がった。


「もう一度だけ聞くね。
何で、こんな事してたの?」



「……か、買う奴がいるのが悪いんだ!!
子供は、高く売れるから……!!」


ふん、と鼻を鳴らしたナマエに、近くに落ちていたガムテープを投げる。

ばちっとそれを受け取ってから、彼女は手足と口をテープでぐるぐると留めた。


「おっけー、お片付けしますねー。」

そのまま、男を袋に詰める。


「クラウド、よろしく。」

「ああ。」


そのままナマエが走っていって、子供たちの縄を解いて行った。
そっとひとりひとりの口に貼られたテープを優しく剥がして、みんなに笑いかける。


「みんな、怖かったね。
待たせてごめん。お家に帰ろうね。」


その声に子供たちは泣き出して、ナマエはその一人一人を優しく抱きしめた。








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