I wanna be like...





「私はさぁ、ティファになりたいよ!!」

「ちょっとナマエ、飲みすぎ……」


荒れてます。
酔ってるんでね。
そりゃあ荒れますよ。


「ティファみたいに女の子らしくて、"オレがこの子を守ってやらないと……!"みたいな女になりたいのよ私は!」

手元のグラスをグイッと煽ると、フワフワした気がもっとフワフワしてくる。

まだ日が落ち切ってないこんな時間から泥酔している自分に、もう1人の自分が呆れてため息をついた。


「可愛い女の子になりたいよ……」



事の発端は1時間前、セブンスヘブンの開店準備をしてた時のこと。



「ナマエ、これを頼む。2箱まとめて持って行けるか?」

「余裕。任せてー!」

「助かる。」


クラウドから頼まれた、お酒の瓶が入ったコンテナ2つ。
台車に乗せると、キャスターが苦しそうにキイッと音を立てた。

色々終わって、セブンスヘブンの再建がやっと終わった頃。
次にするべき何かを探しながら、私とクラウドは店の手伝いに汗を流していた。


「おう、ナマエ。今日も気張ってんな。」

「ナマエお姉ちゃん、こんにちは。」

「バレット、お疲れ様。マリンもこんにちは」


今週末からバレットは油田の採掘に遠くまで出かけるらしい。
その間、マリンはこっちで預かる予定になっている。


「マリンの荷物、今預けてもいいか?」

「大丈夫。もらうね。」


大きなカバンが3つ。
それをバレットから片手で預かって、持ち手を肩にかけて担ぐ。

逆の手で台車を押して、足で開けたドアの隙間から店の中に全部丸ごと突っ込んだ。


「おうおう、相変わらずすげえ力だな……」


お姉ちゃんすごい!力持ち!なんてはしゃぐマリンと、感心するバレットに苦笑いを返す。


「あはは、ありがと……」

「そんなんじゃ、そこらの男じゃお前には敵わねえな!」


がはは!と豪快に笑いながら去っていくバレットに手を振って、店のドアを閉めた。


「……嬉しくねー。」


作り笑いが店の床にぼろっと砕けて落ちる。
でかいため息をついでに並べて置いておいた。


「最後の荷物だね。ナマエ、ありがと!
……どうかした?」


マリンの荷物を客席のテーブルに、お酒は台車ごとカウンターの奥におさめて、私はその席に腰掛ける。


「ちょっとさ、飲んでいい?」






そして、以上から約1時間後が今である。


「やっぱさ……可愛い女の子がいいと思うんだよね。」

「え?」

視線を落とすと、グラスを揺らす私の手。
その手には力仕事のおかげでとても綺麗とは言えない指がついている。

一方のティファの手は、細くてすらっとしていて……
男の人だったら、きっと私のより、そんな手を握りしめたくなるんだろうな……とか。思う。


「クラウドも、もっと可憐な女の子が良かったりする……よね。」


勝手に語って、勝手に落ち込んで。
こんな時だけ女々しい自分が嫌になる。


「やだなぁ……どうしよっかな、クラウドがいつか私のことイヤになっちゃったら……」


カウンターに突っ伏した私の頭を撫でたティファが、優しく微笑んだ。


「……ねえ、ナマエ。」

「うん?」

「そうやって悩んでるナマエ、私はすっごく可愛いと思うけどな。」


「……えっ?」


見上げると、なんだか楽しそうに私の顔を覗き込む彼女。
なんか……笑ってる?


「それにクラウドはナマエを知った上で、選んだんでしょ?」

「まあ、そうだけど……」

「だったら、ナマエはナマエのままでいいと思うけどな。」

「うん……」




「あと、すごく言いづらいんだけど、」

「ん?」


でもなぁ。なんてまた俯きそうになった私の肩を叩いて、ティファが遂に吹き出した。




「クラウドがすごく怒った顔して後ろに立ってるよ。」

「……え?
うわぁっ!!??」

「ティファ、もう準備は終わったな。」

「うん。全部すっかり終わったよ。お疲れ様。」


振り返るとそこには、腰に手を当てて、 いかにも不機嫌な顔をしたツンツンの金髪。

怒ってるな、これ。
めっちゃ怒ってるな。



「ナマエ、来い。」

「ちょっ、クラウド!?」


腕を引っ張られて、クラウドがずんずんと歩いていく。
私たちの住む小さな仮りのアパートのドアを乱暴にぶち開けたクラウドが私を部屋に突っ込んだ。


「座れ。」


顎でベッドに座るよう促される。


「いや、ちょっと」

「いいから座れ。」


圧に負けて、私は渋々そこに腰掛けた。


「あんたは今まで俺と一緒にいて、他の男と付き合いたいと思ったことがあるか?」

「いや……無いけど……」


……なんなんだいきなり。



「俺みたいな男なんて物足りないと思ったことがあるか?」

「無い……」

「俺なんかよりもっといい男がいっぱいいるのに、情で仕方なく俺と一緒にいるのか?」

「そんな訳ないじゃん」

「俺より男らしくて、頼りがいがあって、ナマエを引っ張っていってくれるような男が見つからないかと、いつも思っているのか?」

「そんなの有り得ない!
ねえクラウド、どうしてそんなこと言うの」


たまらなくなって立ち上がった私を、クラウドが乱暴にベッドに押し倒した。


「ナマエはどうして、あんなこと言うんだ」


なんだか苦しそうなクラウドの表情に、今までを冷静にふりかえってはっとする。


「ナマエ。」

「……あい、」

「俺は、ナマエと一緒にいたいからそうしてるんだ。
他の誰でもなく、ナマエと。」


私の胸元を押した彼の手が、ぐっと握られる。
普段はあまりものを語らない彼が、必死に私に伝えようとしてくれている。


「いつも俺を思って頑張ってくれるあんたが好きだ。
戦場で背中を預けられるナマエを頼りにしてるし、実際俺は何度も助けられてる。
普段だってそうだ。
俺が落ち込んでいる時に1番に気付いて気にかけてくれるのは、いつもナマエなんだ。」


握られていた手が開かれて、そっと私の頬を撫でた。
私のことを好きだって、痛いくらいに伝えてくるクラウド。
優しく笑った彼の唇が、そっと私の額に触れた。


「そんな心強くて優しい人が俺のそばにいてくれて、こんなに幸せなことがあるか?」


ああ、この人はきっと、私だからこんな表情を見せてくれるんだ。



「俺はあまり言葉にするのが得意じゃないから、これからもナマエを不安にさせることがあるかもしれない。
……そんな男らしくない俺でも、愛想を尽かさないで、一緒にいてくれるか」



頷くかわりに、今度は私から彼にキスをした。

"愛してる"なんて、言わなくてもわかった。








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