ゼロヒャク





「クラウド、なんか緊張してる?」


鬱陶しそうにネクタイをいじるクラウドに声をかけると、彼は不機嫌そうに口を尖らせた。


「……こういうのは慣れてない。」

「だろうねー、イメージ無いもん。」


メテオ災害から数年後。
ミッドガルの復興を祝って催されたパーティに招かれた私たちは、馴染みのないスーツやドレスを身にまとい、こんな社交場にやってきた。
周りを見れば、上品な立ち振る舞いのご婦人や紳士ばかり。
時々出来上がった男女が抜け出すところは目にしたが、基本は上流階級の人々が多いみたいだ。



「だったらどうして連れてきたんだ」

不満げに私を見る彼に、思わず苦笑いがこぼれる。


「いや、1人で行っていいならそれでいいけど、クラウド嫌がるかなーって。」

「……」


はぁ。とため息をつく彼の腕を引いて、腰に腕を回した。
その瞬間、真っ赤になる彼の耳。


「っ、ナマエ、」

「いいでしょ?」


おどおどするクラウドは私から見ればいつも通りで、でも見知らぬ家に連れてこられた子犬みたいな彼がちょっと不憫に思えた。

仕方ない。こんな時はアルコールに限る。



「すみませーん、白ワインで!」


バーカウンターまで彼を連れて行って、バーテンダーに声をかけた。


「クラウドは?」

「……ウイスキー。」

「マジか、」



とりあえず酔って誤魔化したいんだろう。
可哀想な彼のためには、ここに連れてきて正解だったかもな、なんて思いながらグラスを傾ける。
賑やかな会場を眺めながら、のんびりワインを味わうその隣には、気付けば空のグラスが3つ並んでいた。

「いや……飲みすぎでは?」

「問題ない。」

「まぁ……大丈夫ならいいけど……」


好きにさせてあげよう。
半分むりやり連れてきたんだ、彼のやりたいようにすれば……



それから数十分後。

「ナマエ、」

「ん?何?……って、ちょっ、クラウド!?」


突然、彼の腕が後ろから私を抱きしめた。


「うん」

「いや、うんじゃなくて!」

「嫌か?」

「い、嫌じゃない、けど……」


首筋に鼻をうずめた彼が、満足そうに呟く。

「熱いな、」


いつもは自分から手も繋がないくせに……!!

ふと見遣ると、あれから空のグラスが5個ほど増えている。

まずい。
これは、もしかしてクラウド、めっちゃ酔ってる……!


ぐいっと腕を引かれ、彼と向き合う形になる。

「……く、クラウド……ちょっと恥ずかしい、」


顔を背ける私の額に、彼がキスを落とす。

それからその指が私の頬を掬うように撫でて、焦らすみたいに私のこめかみに口付けが落とされた。

「……クラウド、」

「ナマエ、抜けるぞ。」


少しぽやっとした彼が、恥ずかしげもなく私の肩に腕を回す。


慌てて周りを見回す私の耳元に、彼の熱い息がかかった。

「誰も俺らなんか見ちゃいない。」


いたずらっ子みたいに笑った彼の自慢げな様子が何だか癪で、ネクタイをぐいっと引っ張って、その唇にキスをし返した。

「今度から、外での飲みすぎ禁止。」


少し拗ねる私に、彼が微笑む。

「仰せのままに。」


今度は彼から、私にキスをした。








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