11. About to Give Up
「よう、生きてっかー、と。」
あの日から、俺とこいつ……ナマエとの関係は大きく変わった。
ちゃんと名前で呼び合うようになった。
メシを並んで食うようになった。
くせえ牢獄の中でも、ナマエと一緒に飯を食えばそこは温かい食卓になった気がした。
ただ、主任や会社にはどうにか適当こいて誤魔化しているが、それがいつまでもつかは分からないし、今でさえ周りからは不審がられている。
彼女のことを知って心が近付く程に感じる、俺たちのタイムリミット。
この檻が少しずつ狭く苦しくなっていくような気がして、段々と浅くなる呼吸。
「ナマエ。」
「……ん?」
「お前はさ、もし死ぬならどうやって死にてえとか考えたことある?」
愛おしさと苦しさで息が詰まる。
どうにか息継ぎをするように口を開いて出たのは、甘くて優しい恋とは程遠い言葉だ。
「レノは、考えたことある?」
俺の左肩に寄りかかるナマエが俺を見上げた。
視線を落とすとそこに横たわっていた白くて細い手を握って、指先を弄んでみる。
「……考えねえようにしてる。
どうせ俺みてぇなのは死に方なんて選べないからな。」
「そうなの?」
「会社のために尽くして、会社のために死ぬ。
それ以外に死に方なんてねぇぞ、と。」
ちらりと覗くと、何も考えずに見下ろした俺らの指先を、ナマエも同じように見つめている。
陶器みたいな肌に逆の手で触れると、その目元が細められた。
「私も、そうだよ。死に方なんて選べない。」
「へえ?」
「何となく分かる。たぶん私はもう二度とこの扉の外には出られないんだろうなって。」
「……っ、」
俺を見上げたその瞳の深い闇に飲み込まれそうになる。
ひゅっと喉が嫌な音を立てて、握られてるみたいに痛む俺の心臓。
いやだ、やめてくれ。
そう叫んで現実から逃げようと必死に足掻く俺を、彼女の視線が逃がさない。
「私があなたの首を絞めてるなら、私はもう、終わらせてほしいと思ってるよ。」
「お前、何言って、」
「だって、そうでしょう?
きっともう、私はそういう運命なんでしょ?」
「ッ、そんなこと言うなよ!」
壁に寄りかかって座っていた床から身体を起こして、彼女の上に跨る。
がんっと顔のすぐ横を殴った俺を、怯えもせずに彼女はじっと見上げていた。
「頼むから……ナマエ。
そうやって自分自身を貶めるのはやめてくれ……」
「……私は、いつでも覚悟はできてるよ。」
首に回された腕。
ゆっくりと唇を近づけながら閉じていくナマエの瞳を見つめていた俺は、一体どんな顔をしていただろうか。
それが重なっても、俺の心は冷えきったままだった。