12. Foresee the end





「レノ、」


少し枯れた声が、耳元で小さく俺に囁く。


「ん?」


首元に鼻を埋めれば、肺を充たす彼女の匂い。
ナマエはそんな俺に擽ったそうに笑って、俺を抱き締める腕をきつくした。


乱れた息と、汗ばんだ肌。
彼女の中に溢れた俺の欲が、その白い太腿を伝って落ちていくのが目に映る。

ぐっと来たのを堪えて、抱いたナマエの髪を撫でた。



温もりと優しさ。でも待つのは確かな終わりだけ。

この手をとってここから走って逃げ出せたらどんなに幸せだろうか。
もう誰の手も届かない世界の端で、ただナマエと2人抱き合っていたい。


でも、見えない鎖に縛られた俺らにそんな事出来なくて。




「……ナマエ。愛してる。」



あーあ、言っちまったな。
なんて心のどこかで思いながら、答える前に力尽きて眠った彼女の頬に優しく口付けた。










その日からだった。


彼女の体調は見るからに悪化していき、名前を呼ぶ俺に応えるその声も段々と小さく、掠れていく。



「ナマエ。今日も来たぞ、と。」

「ん……レノ、」

「お前、またメシ食わなかったってな。
ぶっ倒れても知らねえぞ、と。」



俺がいる時はメシを口にするが、それも無理しているのが分かるほど見ていられない様子だった。


「体調悪いのか」


そう尋ねた俺に、ナマエは誤魔化すように笑う。



「なんか、お腹空かないんだ。」



かさついた手を握ると、握り返したナマエがその手に擦り寄った。







ナマエの処分を誤魔化しながら、怪しまれる視線を散らすように任務に没頭する日々。



「じゃあ、行ってくるわ。」


「レノ」


「なんだよ。俺はこう見えても忙しいんだぞっ と。」


「……いや、何でもない。無茶しすぎるなよ。」

「へーへー」


部屋をあとにする俺を複雑そうな目で見つめながらも、ついにルード達は俺には何も言わなくなった。







「……ツォン。」

「うん?」

「もう、正直見ていられない。」

「何の話だ。」

「分かっているだろう。」

「その話はもう終わったはずだ、ルード。」

「しかし……!」

「ルード。仕事に戻れ。」



ガンッ、と、机を殴りつける音が響く。
その衝撃で倒れたカップから零れたコーヒーが、タバコの箱を濡らした。









「……よぉ、ナマエ。」



そしてあの夜から1ヶ月と少し。
ついにナマエは起きられなくなった。








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