小さな大好きを抱えて





夢の中で出会う彼にときめいてる。なんて随分イタイなあって、自分でも思う。

毎晩夢の中で出会う彼は、クラウド・ストライフ。
ファイナルファンタジー7に登場する主人公の青年だ。

このゲームを買ったのは1ヶ月ほど前。ハマりこんだ私は、初めの数日間現実を忘れてゲームにのめり込んだ。

そして二徹してついに眠ったある日、私は彼に出会ったのだ。


「おい。」

甘く、少し掠れた声。

「おい、起きろ。」

クラウドの声だって、すぐに分かった。
原作はもちろん、スピンオフ作品までやり込んで、何度も見返して、もう私の耳にはよく馴染んだ声だ。


「ん……?」


ゆっくりと目を開ける。

「大丈夫か。」

目の前いっぱいに広がる、揺れる金髪と魔晄色の瞳。
うん。やっぱり。


「……クラウド、?」


小さく呟くと、その瞳が小さく見開かれた。


「どうして俺の名前を知ってる。」

「どうしてって……」



だって、ずっと一緒に旅してたから。

マテリアの構成考えて、武器強化して、デートイベントに必死になってみたりもして。

でも、彼は私の言葉に更に眉を顰めた。


「理由になってないな。
俺を陥れる気なら叩き切る。」


そんなこと言いつつ、私を抱き起こす手を離したりしないのが彼らしい。

なぁんか、いい夢だなぁ。


ゆっくりと彼の腕から離れて、しゃがみこんでいる彼の目の前に座り直す。
大好きな彼を目の前に、これを言わない理由がないでしょ。
膝に小石が食い込む感覚を妙にリアルに感じながら、私は小さく頭を下げた。


「ずっとずっと、大好きでした。クラウドくん。」






「ナマエ。」

「あ、クラウド。」


その夢から毎晩、私は彼と出会うようになった。
時には賑やかな街中で、時には小さな牧場で。
私たちの意志とは無関係に、私たちは出会う。

そして私たちはお互いを名前で呼ぶようになって、笑い合うようになった。


「どうする?私が実はめっちゃ悪いラスボスだったら。」

「今更だな。大体、あんたにそんな器量があるのか?」

「無いですね。」

「ふっ、だろうな。」


ぽん、と触れるように彼が私の髪を撫でる。
心地良さに目を閉じると、彼がまた小さく笑った。


少しずつ、でも着実に、確実に、私の中の彼への「大好き」が、違うものに変わっていくのが分かった。
家族に向けるものでも、友達に向けるものでもない、少なくともゲームの中のキャラクターに向けるものなんかじゃ絶対にない、この気持ち。





「ああ、愛してるんだ。」


そう呟いた瞬間、信号を無視して交差点に侵入したトラックが私に突っ込んだ。







「……あれ、生きてる……?」

いててて、と膝を擦りながら立ち上がる。
その目の前には、見慣れた大きなビルが私を見下ろしていた。

そしてその自動ドアをくぐる、あんまり大きくない背中。



「……クラウド!!」


私は走り出して、その背中に抱きついた。

わかったんだ。自分の気持ちが。
ただの「大好き」なんかじゃない、もっともっと、大きな気持ち。

あなたは、受け止めてくれますか?








- ナノ -