塩対応作戦:レノの場合 前編





リビングで呑気に足を組みながらコーヒーを口にして、赤毛の男……もとい、レノはひとり楽しげに笑った。


「さあ、どういう反応するか……楽しみにしてるぞ、と。」


目の前のテレビに映るのは、最近流行りの恋愛ドラマ。
身分を明かさない2人がそれぞれ秘密を抱えながら恋をするという、まあ探せばよくある設定の話だ。
小説が原作のこのドラマは、いい話なのにキャスティングが最悪だと原作ファンに散々叩かれていた。
かくいうレノ自身もそのひとりで、ドラマ化が決まった時はナマエに散々愚痴っていたのも記憶に新しい。

そんな彼がこのドラマをわざわざ見ている理由は、わざわざ言うまでもないだろう。


「はぁー、ただいまぁ。」


がちゃがちゃと玄関のドアを開けて気だるげにリビングに呼びかけた彼女は、レノの恋人。
彼女とは先日1年の記念日を祝ったばかりだ。


「おう、ナマエ。おかえり。」

「ただいまー、疲れたー。」

「友達と飲みじゃなかったのか?」

「それが途中たまたま上司と出くわしちゃってさぁ。
もう後半はただの接待よ。友達と2人でヘトヘト。」

「くく、災難だったな。よしよし。」

「はぁー、今日もウチの素敵な彼氏が優しい。」

「当たり前だろ?」


頭の上に乗った彼の手に、ナマエが擦り寄る。
思わず顔が綻びそうになったところを、レノはハッとして早々に手を離した。

あれ、おかしいな。いつもならもう少しこの流れが続くのに。
彼女が心の中で首を傾げる。
その考えもまるでお見通しだが、レノはテレビに目を向けた。

俺を置いて遊びに出掛けた彼女に、少しイタズラしてやろう。
彼女が帰宅する前に心に決めていた、小さな"作戦"。
さて、彼女はどう出るか。


「あれ、そのドラマ……レノが散々言ってたヤツじゃないの?」

「んー?ああ、まあな。」

「見てるんだ。」

「原作は好きだからな。話は文句ねえよ。」


荷物を置いてルームウェアに着替えたナマエが隣に座る。
思わず髪に触れようとした手をぐっと抑えて、手元のコーヒーをもう一度すすった。

カップから視線を上げると、ちょうどヒロイン役の女優のシーン。


「この女優、最近よく出てるよな。」

「うん、そうだね。テレビつけたらだいたいうつってるイメージ。」


「可愛いな。俺、この顔好きだわ。」


対して興味もないが、その女優を褒める。
さあ、どう返すか?
思わず笑いだしそうになるのを堪えながら、レノはそれとなく隣の彼女の様子を窺った。








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