塩対応作戦:レノの場合 後編





「えっ!!めっちゃ分かる!!
この二重の幅とか小さい顔とかめちゃくちゃ可愛いよね!
あとこの子歌も上手いの、知ってた?
でもこう見えて実はすっごくお酒好きなのも可愛いし、あとトークも上手で面白いんだよ!」


いや、知らねえよ。
思わずツッコミを入れそうになるのをすんでで堪える。
良いのかよ。彼氏が他の女褒めてんだぞ。
思わず彼女を見遣ると、当の本人はキラキラした目で画面を見つめている。
なるほど。全く効いていないようだ。


「ああ、確かにそれは可愛いかもな。
一緒に飲みに行っても楽しそうだし。」


もう一度鎌をかけてみる。


「いや、めっちゃ分かる。私もこの子とならめちゃくちゃ盛り上がれる自信あるわ。」


……こいつ、大丈夫か?
なんかふつう女はもっとこう……
「私っていう存在がいながら、ヒドイ!」みてぇな事言うものだと思ってたんだが。
というか実際、そういう女とばかり出会ってきた。


「いやー、でも意外。レノってこういう女の子がタイプなのかー。なかなか見る目あるね。」

彼女にはまるでそんな雰囲気は感じ取れない。
無理に強がっている様子でも無いし、むしろうきうきしながら盛り上がっている。


「……はぁ。お前なぁ。」

「うん?どした?」


呑気すぎる彼女にはこれ以上何を言っても無駄な気がして、思わずレノはため息をついた。


「いいのか?お前の男が他の女見てんだぞ、と。」


レノの言葉に、ぽかんとしたナマエは心底ふしぎそうに首を傾げた。


「うん、そうだね?」

「なんか嫉妬とか、そういうの無えの?」


問いかけに、彼女がうぅんと考え込む。
そしてふと顔を上げて、再び首を傾げた。


「だってレノ、私の事大好きでしょ?
何も心配すること無くない?」

がつん。
見えない何かで頭を殴られる。


「そりゃあ目の前で女の子をその調子で口説いてたら心配になるよ?
レノかっこいいし、優しいし、少し悲しくなるかもしれないけど……でも、ありえないでしょ。」


流れるように、ナマエがレノの手元のカップを取ってテレビを見ながらコーヒーに口付ける。


「実は結構自信あるんだ、レノが私の事好いてくれてるの……って、あんた何その顔。」

「……見んなよ、と。」


隣にやっと目を向けると、そこにはもういっぱいいっぱいだと言うように手で顔を覆う彼。
髪の隙間から覗く耳は、彼の綺麗な髪色に負けないくらい赤く染まっている。

はぁん。こいつ、自分で仕掛けておきながら照れて居やがるな。


ナマエが、ぎゅうっとレノを抱き締めた。
悔しげな表情がのぞいた次の瞬間、気付けばナマエの唇はレノのそれに重なっていた。



塩対応作戦 レノの場合
結果 : むしろしてやられた。








- ナノ -