5/7 ポップコーンと映画館 編
春の浮かれた街並みも落ち着きつつある5月の初頭。
私は今、ひとりで映画館に居ます。
待つのはもちろん、絶賛片思い中のあの金髪。
そして今日は、珍しく現地集合。
というのも、クラウドは夜まで仕事。
仕事が終わるのが映画館の近くらしく、だったら現地集合の方が都合がいいねという話になったのだ。
見るのは、今流行りのあの映画。
人が集まる場所にあまり行きたがらないクラウドを無理やり説得し、言いくるめ、どうにか鑑賞まで漕ぎ着けた。
半分は本気だ。
元のアニメが面白かったし、周りのみんなの話といえばこの映画のこと。
一度は見に行ってみたいと思っていた。
……残り半分は、あわよくばクラウドといい雰囲気になれればラッキーなんて、下心。
「ナマエ、」
何味のポップコーンにしようかな。なんて呑気に考えていたところに登場したクラウドに、私は手を振った。
「あっ、クラウド!待ってたー。お疲れ様。」
「うん。チケットは?」
「買った買った。ちょうど真ん中が空いてたからそこ取っちゃったけど、良かった?」
「どこでも構わない。……払う。いくらだ。」
「いいよいいよ!私が無理に誘ったみたいなところあるし……」
……こっそりカップル割にしてたのがバレたら気まずいし。
心の中で言い訳しながら、じゃあお菓子代払って!なんてクラウドの手を引く。
レイトショーだからお客さんもそんなに多くなくて、すんなり買えた。
「ほい、これ。チケット。」
「ああ、ありがとう……」
クラウドが、受け取ったチケットをじっと見つめる。
「……どうかした?」
尋ねた私に、クラウドはいたずらっぽい笑みを浮かべてチケットをひらっと見せた。
「"カップル割"。」
「あっ、えっ!?」
慌てて自分のチケットを見ると、料金が書かれているところに、しっかり、太字で、『カップル割』の文字。
「い、いやっ、これはですね!」
ワタワタしだす私に、彼は小さく微笑んだ。
「分かってる。
安くなるならその方が都合がいいからな。」
「そ、その通りです……」
いくぞ。と私の手を取って、クラウドはずんずん入口に歩いていく。
私のドキドキは収まらないまま、私たちは席についた。
「ぐすっ、ズズっ、」
「……ナマエ、泣き止んでくれ。」
「だ、だって短治郎が……頑張ってて……」
「それはさっきも聞いた。」
結果から言うと、下心どころでは無かった。
映画中盤から私はクラウドの事なんてすっかり差し置いて、終わって電気がついた頃には、いわゆる大号泣。
その泣き顔のままレストランに来た私たちを、周りは何事かと窺っている。
もちろんそんな周りの目にクラウドが気付かないはずもなく、映画が始まる前とは打って変わって、今度はクラウドが慌てていた。
「……ごめん、クラウド。めっちゃ泣いた。」
「そうだな。」
店員さんが持ってきてくれたお冷をクラウドがもらってくれて、テーブルの上の紙ナプキンで涙を拭いながら水をあおる。
やっと落ち着くと、感動しまくった私とは対照的にクラウドはなんて事ない顔をしているのに気が付いた。
「……クラウド、退屈しなかった?」
映画は私にとっては間違いなく面白かったけど、好みは人それぞれだ。
そもそもクラウドがアニメを見ているイメージが全くない。
一応話を知っているとは聞いたけど、もしかしたら盛り上がっていたのは私だけだろうか。
心配そうな顔をしていたのか、そう尋ねた私に、彼は少し笑いながら頷いた。
「ああ。ちゃんと楽しかった。感動した。」
「ほんとに?」
「うん。あんたと来られて良かった。」
柔らかく笑った彼の手が、徐に伸びる。
袖口で私の涙を拭って、その手はそのまま私の頭に。
まるで大切な何かに触れるように、その指先が髪を掬った感触が、その手が離れてからも残った。
「ありがとう、ナマエ。」
なっ……んだ、それ…………!!!
ぶわっと顔に熱が集まるのを感じて、咄嗟にテーブルに伏せる。
「ナマエ?」
「ソレハ、ヨカッタデス……」
えっと……作戦成功?
そんなことを考える余裕も無いまま、私はもう一度お冷のグラスを呷った。