01はやとちり



 玄関のチャイムが鳴り、広げていた衣装を整えていそいそと出迎える。
「いらっしゃーい! クエスト受けてくれてありがとう! ……あれ?」
「どーも。よろしくお願いします」
 そこに立っていたのは赤い髪で、前髪が特徴的な……男の子。
「依頼内容は、ユニットの衣装を来て写真を撮る、ですよね」
「そう……なんだけど、えっと、大丈夫?」
「当たり前だ! さっさと着替えるから衣装を出してくれ」
「そっか。よかった、同じ趣味の人が受けてくれて!」
 もしかして勘違いしてるのかなと思ったけど、彼はやる気満々だ。私は彼を招き入れ、リビングに広げていた衣装を見せた。
「どう? 手作りなの! なかなか凝ってるでしょう」
「ふーん。すげえなお姉さん。それでこれ、なんのユニットの衣装なんですか?」
「あれ、知らない? オラクルシンクタンクのスカーレットウィッチココっていうの。まあかなり昔のカードだからね。」
「オラクル……?」
 どうやら彼はカードにはあまり詳しくないみたい。まだ初心者なのかな。
「本当は女の子に着て欲しかったんだけど、君、かわいいからオッケー! さあ、はじめよっか」
「え? おい、ちょっと待てくださいよ……。これ、女物ってことか!?」
「うん、そう……あれ? 君ってこういう格好するの好きだから受けてくれたんじゃないの?」
「今日はクエスト受けに行くの遅くて、ほとんど残ってなかったんですよ! だから……」
「条件をよく見もせずに受けたってわけね? なんだ」
 残念。やっぱり勘違いか。そうだよね。こういう趣味の子なんて、なかなかいないよねぇ。今までも誰かに私の作った衣装を着て欲しくて依頼を出してみたんだけど、なかなか受けてくれる子はいなかった。だから、こんなにかわいい子がうちに来てくれて、とっても嬉しかったんだけどなぁ。
「じゃあ、やめとこうか。ごめんね、変なこと頼んで」
「えっ? あ、いや……俺こそ、その、ちゃんと見てなかったのが悪いんで……」
 彼は気まずそうに頭を掻く。
「私、ゆりか。君は?」
「俺? クロノですけど」
「クロノくん、まだカードのことあまり知らないなら、よければ教えようか。もしくは、依頼内容をファイトの練習に変えるよ。せっかく来てくれたんだし、無駄足じゃ可哀想だもんね」
「無駄足って……ことはないですけど」
 クロノくんはじっと私の作った衣装を見て、私を見た。
「じゃあ、俺とファイトしてください」
「うん、いいよ」
「それで、もし俺が負けたら……それ、着ます」
「え?」
 それ、と彼はココの衣装を指さす。
「いいよ、いやでしょ? スカートだよ」
「うっ、わかってます! 勘違いとはいえ、自分の意思で受けた依頼だから、やります」
「……ほんとに?」
「男に二言はない!」
「よし、じゃあ乗った!」
 クロノくんの頼もしい答えを聞いて、私は俄然張り切ってデッキを取り出した。
 クロノくんがイヤだって言うならもちろん無理強いはしないけど、着てくれるっていうなら、このチャンス逃す手はないよね。クロノくんは可愛いし、スタイルもいいし、赤毛だし、絶対似合う!
「そうと決まれば、全力でいかせてもらうね、クロノくん」
「当然ですよ。よし、行くぞ!」
「えっ、そのクラン、何? 見たことない!」
 クロノくんの使うユニットは私の知らないものばかりで、戸惑った。いつの間にこんなの発売されてたんだろう。積極的に新商品を追いかけてるわけじゃないけど、新クランが出るなら、どこかで耳に入るはずなのに。
 初めて見る能力に動揺してしまって、最後まで立て直せず、私は負けてしまった。
「クロノくん、強いなぁ」
「初心者だって侮るからです」
「ごめんごめん。ねえ、デッキ見せてもらってもいい?」
「……お姉さんの、見せてくれるなら」
「うん、どうぞ!」
 私達はお互いのデッキを交換して、どのカードをどんなふうに使っているのか、話し合った。
「へえ、そういう効果もあるんだな」
 クロノくんはすっかり真剣になって、気になったことを全部質問してきた。彼は飲み込みが早い。きっともっと、強くなるんだろうな。
 お茶を淹れてクッキーを食べて、あらかたカードの話も尽きたころ、クロノくんは部屋の片隅に置かれたままの衣装を指さした。
「……なあ、お姉さん、こういうの作るの趣味なの?」
「うん。ユニットの衣装って、素敵でしょう?」
「自分では着ないんですか」
「自分で着たら見れないじゃない?」
「写真撮ればいいじゃないですか」
「うーん、そうなんだけど、やっぱり誰かに着てもらった方が私は楽しいんだよね」
 自分で着ることもあるけど、そうじゃなくて、私は誰かに着てもらって、動いているのを見ていたいんだ。
「そうだ。男の子用のもあるから、もし興味あるなら着てみる?」
「いや、いいっす」
「……だよねぇ」
 つい溜息を吐く。
「なかなかいないんだよね、着てくれる人」
「そうなんですね。……もったいねえ」
「ねえ」
「……俺は着ませんよ」
「あはは。わかってるよ」
 クロノくんはカードを片付けて、立ち上がる。気がつけばもう二時間も話していた。
「ともあれ、クエストを受けてくれてありがとう。新クランと戦えて楽しかったよ。よかったらまたファイトしよう」
「はい! 俺、よくそこのショップにいるから」
「そっか。じゃあ、またね。今日は本当にありがとう」
 じゃあ、と片手を上げて、クロノくんは帰っていった。
 クロノくんかぁ。
 クロノジェット・ドラゴンの衣装作ったら、着てくれるかなぁ。うん、意欲湧いてきた!

/