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「…え、俺に?」


部室でバッシュの紐を結んでいたところに上から声がしたので見上げた。
すると俺に何かを差出すように手を伸ばしている人物が一人。
それが何を示すものであるか確信は持てないが理解はできて。
間違い、冗談、と言った単語が次に出てくることを待ちながらそれを彼の手から受け取った。


「日向くん伊月くんと仲いいでしょー。だからお願い!って。」


気持ちに整理がついてきて、日向とも普通に話せるようにまで余裕がでてきた俺に差出されたのは一通の手紙。
それは見る限り女の子が好むような柄で、便箋に書いてある“伊月俊くん”という文字もおそらく女の子が書いたもの。
こ、これってあれだろ、あれだよな?
い、いや俺に限ってこんなものもらうはずはなくて…
しかもそれを俺に渡したのはあの日向で。
いつもと変わらない表情のまま、声のまま俺を見つめていう。


「うわ!伊月それラブレターじゃん!」

「おー。ついに伊月にもか」

「ちょっ、見んなよ見んな!」


いつからいたのか後ろから俺の手の中にある手紙をもの珍しそうにまじまじと見つめてニヤニヤしながら茶化してくる小金井に木吉。
俺は慌てて手紙を背中に回して隠すようにした。
こんなこと本当に初めてで、少しうれしい反面ショックだったこともある。
もしこれが本物のラブレターであったならば女の子には失礼だと思うけど…
俺宛てにこれを受け取った日向は一体何を思ったんだろう。
彼女ができるかもしれない俺に腹だたしく思ったのだろうか。
それともそんなこと関係ないと何も思わずにこれを俺に渡したのだろうか…

前者であってほしいとは思うけど、さっきのあの顔つきといい態度といい後者であると考えたほうが妥当だろうか。
やっぱり、日向の気持ちは俺には全く向いていないのか…

ロッカーのなかのカバンに手紙を丁寧に入れて、再びロッカーを閉めて体育館へと足を伸ばした。



さっきのことが頭から離れずに練習メニューをこなす。
シュートにハンドリング、マンツーマンにスリーメン…
次々とこなしていき、10分の休憩時間が与えられドリンクを飲みに向かおうとしたら前で歩いていたはずの日向が急に立ち止まり振り返って俺に話しかけた。


「中身は読んだか?」

「あ、いや…家に帰ってから読もうかなって考えてた」


隣に並んでドリンクに手を伸ばす。
それだけだけど俺のこと気にしてはくれていたんだと思うとそれだけで嬉しくなって顔が綻んだ。
たったそれだけの言葉を交わしてまたすぐに転がっているボールを手に取りシュート練習をはじめた。

俺のこのキモチは報われることはないんだろう。
―だったら、女の子の俺への気持ちを素直にありがたく受け止めるべきなのだろうか。
どうすべきが正解なのか、わからない…


「伊月、OKする気なんだろ」

「うわ、木吉!?」


ぼーっとしていた俺が悪いのかいつ来たのか分からない隣に立っていた木吉に話しかけられてドキっとする。
それも、今ちょうど考えていたことを言い当てられたから。
OKするもなにも…
そう言いかけた時木吉はさらに俺を追い詰めるように言った。


「伝えもしないで諦めるのか、伊月は。」


少しづつではあるがその気持ちを静かにおさめていこうと考えていたところだった。
女の子と付き合えば日向のことなんて忘れられる。
このつらい気持ちもポイと投げて捨ててしまえる。そう思っていたから…
俺はそんな木吉のいつになく真剣なその言葉になにも言い返せなかった。
今まで散々相談を乗ってもらっていた木吉の今回の言葉は重くて重くて、今の俺にはすべてを抱えきれそうにないほどであった。

忘れる。と諦める。とでは意味がだいぶ違う。
だけど俺は忘れる。といった意味の言葉で諦める。という実に響きの悪い言葉を否定しようとしているだけなのかもしれない。
逃げてる、だけ。


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