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シュパッ、と気持ちのいい音をたてて日向の放ったシュートは決まった。
俺の繋いだパス。
それを日向は気持ちよく決めてくれる。
その後には必ず


「ナイスパス、伊月っ」


明るく、どんな時でもそう声をかけてくれる。
今まで基礎練からのミニゲームという練習内容で息が上がって鼓動が早まっていた俺の心臓。
だけどその、今の瞬間だけはまた別の意味で心拍数があがり心臓がキュン、と音をたてた。
俺の横を走り去る日向のあの背中がいつになく頼もしく感じたのは何故だろうか。
そしてあの背中にいつまでも身を預けていたいと思う俺は何なんだろうか…



「伊月くん?」

「わ、あ、カントク…」

「どした?黒子くんと火神くんのこと見て」


先に言っておくが、カントクはこの部活の中でカップルがあることを知らない唯一の存在だ。
誠凛バスケ部のマスコットキャラクターであるテツヤ2号でさえも知っているはずだ。(たぶん)
だからあの2人の仲が急激に縮まったことに関しては多少の違和感は覚えつつも単に絆が深まったのだろうとしか思っていない。
どう考えてもあの二人のイチャつき具合は絆の域を大分超えているとは思うのだけど…
下手になにも言えないしな。
そもそも俺があの二人を見ていたことに関しては事実。
だけどあんな風に仲良くできたならと考えていたなんてカミングアウトしてしまっては冗談だろうと笑って流されるか冷ややかな目で見られるに違いない。
だから俺は言っては悪いがカントクには少し不似合いなことを問いた。


「誰かとずっと一緒にいたいって思ったこと、ある?」

「え…?」


休憩時間の終わりを告げようとしたのか首から下げているホイッスルに口を近づけたと同時に俺の口から放たれた想像もできない内容の問いに目を大きくして驚いた表情を見せた。
いつもならハハッ、って大きく笑って見せるはずなのに今の俺に笑いかけられるほどの精神維持力は無かった。
こんなの、理不尽だよ。
そう思ってしまったから。
少しだけ間を置いてからホイッスルを手に握ったまま俺の顔を覗き込んでカントクは言った。


「伊月くん、恋のお悩みですか?」

「…」

「まったくだらしないわね!バスケしてるときみたいにシャキッとしなさい!踏み出すにしても留まるにしても後悔するのは自分よ!」


威勢のいい声で俺に喝をいれると持っていたホイッスルを吹いた。
ピー!という高い音が体育館に響くと各々に休憩していたみんなが走ってこちらに向かってきた。
あまり気の入らない俺はたしかにだらしがない。
女に恋に関してだらしがないなんて言われてしまうのはかなり男としての立場が危うい。
だけど俺は、一歩をどう踏み出していいのか分からないでいる。
今までの関係を糸も簡単に壊したくなんてない…
ーその思いが強すぎて。



「水戸部、帰ろっか」


放課後の練習を終えた俺たちは部室のそれぞれのロッカー前で支度を整える。
一足お先に土田は彼女の待つ校門へと急いで出て行った。
小金井は支度がすべて整い、ロッカーを閉めた水戸部に声をかけた。
水戸部は微笑みながら頷いて小金井と同じくして部室を出て行く。


「黒子ー置いてくからなー」

「待ってください、火神くん。」


すると次に帰る支度が整ったらしい火神は部室の扉の前で急かすように黒子を呼ぶ。
だけどまだ当の本人の黒子は身支度が済んでいないようで少しばかり手を動かすスピードを早めてカバンの中に練習着やら何やらを突っ込んでいる。
やっと終わった黒子は火神の元に小走りで駆け寄り、火神と一緒に「お疲れ様でした」と俺たちに挨拶をしてから部室を後にした。
俺も早く帰ろうと制服を着る手を早めると隣で誰かの携帯が鳴っていることに気づく。
勝手にディスプレイ画面が明るみを持ち、俺の目に入ってきた文字は、"赤司征十郎"であった。
そうとなればこの携帯の持ち主はただ1人。


「降旗ー。赤司から電話ー」

「えぇっ!?あ、ありがとうございます!」


自分の携帯が鳴っていることに全く気が付いていなかったのか持ち主に声をかけるとさぞ驚いたように目を大きくして携帯を手に取り俺たちに挨拶をしてから部室を出た。
なんだかんだ言って、あの降旗カップルが色んな意味で一番問題アリかもしれない。
上着を羽織ってロッカーの扉を閉めると隣で日向も身支度が済んだようだ。


「帰るか、一緒に」

「え?あ、え、あうん!」

「なにキョドってんだよ」


目があってビックリしたから。
ここんとこ最近俺は意識し過ぎてプレーに支障が出るからと普段からなるべく目を合わせないようにしていた。
だから不意を突かれたような今の視線のぶつかりには驚いた。
それに、日向と一緒に帰るだなんて…

…イ、イヤ。
こんなことで意識して挙動不審になるようじゃ情けない。
普通に、普通に。


「んじゃお先にー」

「お疲れ、カツカレー!」

「伊月、そろそろそれ飽きた」


やることがあるから、と言ってまだ残る予定である木吉に挨拶をしてから俺たち2人も部室を出る。
お決まりのセリフを言えば俺の方は向かずに突っぱねたように言い返してきた日向。

…そうか、そろそろコレは御蔵入りかな?
上目に見て何か考えていると日向との間に距離ができたので走って詰めた。


「アイツ、どうする気なんだろう?」


ただ1人部室に残った俺、木吉鉄平は先ほど出て行った伊月を心配するように呟いた。



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