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数学の授業って、どうしてこうも暇に感じるんだろうか…
こんな暇な授業するくらいならダジャレの授業した方がいいに決まってる。
それだったら俺ももっと真面目にノートとったり率先して発言したりするんだけどなー。


「…はあ」


頬杖をつきながら窓の外を眺めていると校庭で体育の授業を受ける多数の男子生徒が見えた。
彼らは楽しそうに陸上競技の練習をしているようだった。
その中に一人、見覚えのある人がいた。

…日向だ。
バスケの試合中でも決してメガネを外さない彼は体育の授業でも外したりしないわけで。
バスケ部でキャプテンの日向は短距離もハードルも幅跳びも難なくこなしている。
持ち前の運動神経の良さを体育で発揮している日向の成績は社会と並んで飛び抜けていつも"5"だ。
そんな日向の楽しそうに笑いながら走る姿を見て俺は今自分が置かれている立場に気がついた。


「伊月くん、当たってるよ?」


…マジすか。
隣の女の子に当たっていることを指摘されればやっと我にかえる。
そ…、と先生の方に視線をやれば、外ばっかり見ていて授業を真面目に受ける気がないと見て取れた俺の態度に先生は呆れ気味だ。
黒板を指差しているということは言わば「この問題を解け」ということなのでしょう。
けど俺の頭じゃ理解できないその羅列された数字は俺にとっては悪魔の呪文としか思えない。


「わかりません」


素直に答えると先生は分かりきっていたように頷いてから他の人を指した。
…俺ができないこと知ってて当てるなんてあの人鬼畜以外のなんでもないでしょ。
悪魔だ、悪魔。
とまあなんとも捻くれたことを考えながら暇で暇で仕方が無い数学の授業を受けることにした俺の耳に届いたのは先生の声なんかじゃなくて。
他でも無い


「ふざけんな!真面目にやれ、だアホ!!」

「ふっ」


日向の声。
聞き慣れたセリフを耳にすれば俺は自然と笑ってしまう。
あのセリフ、結構中毒になるんだよねー。
左手で頬杖をついて右手でペンを回して、耳は自然と窓の外に向けて。
火曜日の二時間目、数学の時間はこうやっていつも過ごしてる。
日向が体育の授業を受けてる時は尚更ね。


「伊月どしたの?」

「何が」

「最近ボーッとしてること多いよ?」


お昼休み。
俺は決まっていつも同じクラスであり同じチームメイトの小金井と水戸部と一緒にお弁当を食べる。
男子バスケ部総出でみんな一緒に食べることもたまにあるんだけど。

弁当のおかずのハンバーグに箸を伸ばして口に運ぼうとしていた時に小金井は言った。
きょとん、と普段と何ら変わりのない表情の小金井に心配そうに静かに頷く水戸部。
"ボーッとしてることが多い"と指摘された俺だけど自覚症状はこれといってナシ。
単に無意識にボーッとしているだけなのだ。


「いや、無意識だ」

「いやいや、それ以前に意識してボーッとすることないでしょ」


心配ない、と水戸部に笑いかけると何に安心したのか胸を撫で下ろしたように微笑んで弁当を食べ続ける。
それに笑いながら俺にそう言った小金井も楽しそうに弁当を食べ続ける。
俺もさっきのハンバーグにもう一度手をつけて口に運ぶ。
意識してボーッとすることなら無いわけではない。
考え事をしているだけ。
別に病気でも悩み事があるわけでもない。
でも俺、指摘されるほど普段そんなにボーッとしてるか?
…無意識って怖いなー。
悠長にそんなことを考えながらペットボトルの蓋をあけて中身を口にした。

目の前で笑いながら水戸部のお弁当のおかずをつまんでいる小金井に、そんな小金井を嬉しそうに微笑みながら見つめる水戸部。
そんな2人のイチャつき振りを目の前にしていた俺は口を開いた。
そう言えば…、さ。


「お前らっていつから付き合ってたんだっけ?」

「ぶっ!?え、ええ!!?」

「…っ、」


突然すぎる俺の発言に口に含んでいたものをあからさまに吹き出す小金井。
それから「やめろよ伊月!」と言わんばかりに取り乱して辺りを警戒し出す小金井。
さらには寡黙なのは変わらずに頬を赤く染めながら俯き少し焦っているようにも見てとれる水戸部。
ああ、やはり教室で普通のトーンで話し出してしまうのはいくらなんでもマズかったか…
ついついバスケ部のノリで口に出してしまったわけなのだが。
だが幸い誰1人としてこちらの会話に興味を示していなかった。


「でもどうして急に?」

「いや、気になっただけだよ」


確か、今の部活内カップルは小金井と水戸部に、黒子と火神。
さらには降旗とまさかの赤司。
これだけ揃いに揃ってしまうと、アレだよな…


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