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それからというもの、黒子さんは僕と青峰さんとの近況を聞いてくれたり相談に乗ってくれたり元チームメイトなりのアドバイスをくれたりした。僕も黒子さんと火神さんの近況を聞いたり黒子さんなりの想いを聞いたりした。
だけどやっぱりその間も何かに引っかかるモヤモヤはなかなか消えなかった。一体なんなのだろう…
「桜井くんは、青峰くんのこと大事に思っているんですね」
「うちのエースとしてもそうですし、憧れや僕たちの関係性もありますからね」
「良かったです。」
飲み終わったらしいバニラシェイクの空き容器を机の上におき、また嬉しそうに笑う。でもどうして黒子さんが嬉しがるんだろう…?
僕はそのことを直接聞いてみた。
「何で、と言われましても…あ、でも強いて言えば青峰くんて強情で自我が強いじゃないですか。だから新しいチームで浮いてないか心配だったんです。」
「ああ…そういうことですか」
「でもこんなに青峰くんのことを好きでいてくれるパートナーが傍にいてくれているならもう僕が気にすることもないですね。」
そういうことだったんだ、と納得する反面やっぱり何かが気になって仕方がなく腑に落ちない自分がいる。いい加減このモヤモヤを晴らしたい気持ちでいっぱいなんだけど相変わらず分からない…ただ僕の前で名残惜しそうに空き容器を見つめ撫でる黒子さんをボーッと眺めることしかできない。さっきから考えすぎてちょっともう頭が疲れて来ているみたいだ。
「あー、でも…」
突然何かに心当たりがあるように声をあげた黒子さんの次に出てくる言葉に耳を傾ける。
「会いたいと思うなら、会いたいって伝えて会う方がお互いの為にもなると思いますよ。」
何を言い出すんだろうと思えばアドバイスのようなお言葉をもらい、その言葉の意味を考えてみた。
確かに僕から会いたいと言ったことはなく、会うときは大抵たまたま会うってパターンと青峰から会いたいって言ってくれることがほとんど。今まで青峰さんに今すぐに会いたいと思ったことは数えきれないほどあったし何度も伝えたいと思っていた。だけどやっぱりスルーされるのも怖いしワガママな奴だと思われて嫌われるのも嫌だ。そう思ってばっかりで今まで我慢し続けて来た。
「僕から会いたいって言っても嫌われないですかね…」
またこうして、自信のない発言をしてしまう。それでもし返って来た言葉が「そうですね。嫌われるかもさかれないですね」とかだったらどうするつもりなんだろうか…
黒子さんの返事の内容に怯えながらも、実は「そんなことないですよ、大丈夫です」と言った安心できるような答えが返って来ることを期待していた。
「どうでしょう?」
「…っへ、?」
だけど返ってきた言葉に僕は思わず変な声を出した挙句、まぬけな顔になっていると思う。
だけどよくよく考えれば、青峰さんが僕のことを本当はどう思っているのかなんて知ってるわけないし無責任に嫌われないですよ、なんてホイホイ言えるわけじゃないんだからこの返しが当たり前、か…
「僕は火神くんに会いたいときはすぐに会いたいって言いますよ。彼もそれが嬉しいって言ってくれますし」
「そう、なんですか…」
なんだか黒子さんたちがとても羨ましく思えてきてしまった。こんなこと思ったら青峰さんに失礼だなんて分かってるのに…
もう大分溶けてしまっているバニラシェイクを啜る。冷たいバニラシェイクが、僕の身体を芯から冷す。今はもう真夏だしこのくらいがちょうどいいはずなのに今の僕には十分なほど冷たく、なんだか悲しくなってきた。
「こないだ二人でバッシュ買いに行ったんですよね?」
「え?…そ、そうなんです。青峰さんがお揃いのバッシュが良いって言い出したんですけど、それはなんだかさすがに気恥ずかしくて…」
「お揃いのバッシュ…確かにちょっと恥ずかしいですね」
「ですよね、でも僕はそう言ってもらえたのが嬉しくて…バッシュはダメだったんですけど、バスパンとバッシュ紐はお揃いにしたんです!」
「そうなんですか…」
え?え…?ちょ、ちょっと待ってよ。僕が青峰さんと一緒にバッシュ買いに行ったこと、どうして黒子さんが知っているの?あの場にいたとか…?
でもなんかあのモヤモヤがもう少しで晴れそうな気がするんだけど…あともうちょっとで何か分かるはずなんだけど…っ、
「他にデートした話ありますか?」
「えっとですね…あっ、!こないだ休日の練習のあとに二人でアイス食べに行ったんですけど、子供が走り回ってて転んじゃったんです。そしたら青峰さんが誰よりも早く声をかけに行ってあげてて…頭撫でてあげてたりしたの見たら、青峰さんのこともっと好きになった気がして…」
「青峰くんも大人になったんですね。それに二人で練習終わりにアイス食べに行くことなんてあるんですね」
「その時は僕が練習中にアイス食べたいって独り言言ってて…それを聞いてた青峰さんが連れて行ってくれたんです」
そんなこと話していると、さっきまで冷え切っていた身体がなんだかだんだんあったかくなってきた。それにふと窓の外を見てウィンドーに映る自分に焦点があったときとても嬉しそうな顔をしていた。
僕…青峰さんの話するときいつもこんな顔してるのかな…
「はじめに二人が付き合いだしたって聞いたときは、驚きましたけどね」
鞄の中から徐に携帯を取り出しながらそう言った黒子さんの言葉で、思い出した。今までのモヤモヤの正体が分かった。
「…ーーー!!そういえばっ、なんで僕と青峰さんが付き合ってること知ってるんですか!?教えたの桃井さんしかいないんですけど…っ!まさ、か…」
そうだ。どうして今まですぐに思い出せなかったのだろう。核心だったじゃないか、どうして僕と青峰さんが付き合ってること知ってるんだ?桐皇の部活仲間だって桃井さん以外誰にも教えていないのに。ましてや誠凛なんて全然違う学校だし…そして僕は桃井さんが話してしまったのではないかと思ってしまった。
しかしその考えを黒子さんが否定し、事実を話してくれた。
「桃井さんは僕に何も言っていません。僕は青峰さんから言われたんです。キミと付き合いはじめたんだ、と。」
できる限り僕たちのこの関係を隠しておこうと言いだしたのは青峰さんの方なのに…どうして黒子さんには話したんだろう?
…でもなんとなく、分かる気がしてきた。青峰さんの元相棒だけあって青峰さんのことよく知ってる、分かってる。それに僕も黒子さんなら話せる気がする。今だって誰にも話したことないことたくさん話した。
「そうだったんですね。スミマセンッ、知らなくて…」
「知らなくて当然ですよ。あ、それと僕が青峰くんから聞いたことをキミに言ったこと、青峰くんには内緒にしておいて下さいね」
「…分かりました」
どうして言ってはいけないのか気にはなったが、全体的なモヤは完全に晴れた為スッキリした。
それと、なんだか今から青峰さんにとても会いたい気分だ。
残っていたバニラシェイクを飲み干し、トレーと鞄を持って立ち上がった。
「僕、なんだか今から青峰さんに会いたいので会いにいってきます!」
「…!!」
「それじゃあ、またお話ししましょうね!」
黒子さんの見せた驚きの表情の意味が分からないけど、とにかく僕は今すぐ青峰さんに会いたい。会いたい…!走って行こうか、ここから走って青峰さんの胸に飛び込んでしまおうか。なんでもいい、声が聞きたい。顔が見たい。体温を感じたい。
こんな衝動に襲われたのははじめてかもしれない。前よりも、もっと、もっと青峰さんが好きになった証拠なんだろうか…?いや、難しいことはよく分からないけどいまはとにかく青峰さんに会いたい…!
僕は、駅への足を早め走って大好きな青峰さんの元へ向かった。
「驚きました、ね…まさか、こんなに二人が惹かれあってたなんて」
そのとき黒子は、青峰から来ていたメールを読み返し、感慨にふけっていた。
ーーー"今すげー良に会いたい"。
僕が何かしなくても、もう十分二人は想い合ってるのに。何が不安にさせるんだろうか…
「僕も、なんだか火神くんに会いたくなりました」
携帯を鞄にしまい、空き容器を手に取り席を立ちゴミ箱に処理をしてマジバを出るとなんとも言えないくすぐったいような気温と風に背中を押されたように走って火神くんの元へ向かった。
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