マジバで黒子さんと

「えっと…ポテトのMとバニラシェイクお願いします…」

「かしこまりました。ではお会計が…」


今日は練習が珍しくOFFだったので、前から行きたかった雑貨屋さんと本屋に寄り、それから一休みをするべく駅へ向かう途中にあったマジバに寄ることにした。


「お待たせ致しました。こちらがご注文の商品でございます」

「スミマセン、ありがとうございます…」

「ごゆっくりどうぞ」


商品が乗ったトレーを受け取り空いている席が無いか、辺りを見回す。だけど僕と同じように学校帰りであろう学生がうじゃうじゃといてパッと見る限り空いている席はなさそう。しかし、困ったな…とトレーを持ったまま歩いていると窓側の二人席が空いていることに気がついた。
こんなに混んでいるのに空いていたのでラッキー、と思い椅子を引きトレーを置いて席についた。


「せっかくのOFF…やっぱり二人で会いたかったな…」


行儀が悪いとは思いながらも右手で頬杖をつきながら窓の外を見つめ、トレーの上に置いてあるポテトへと手を伸ばす。
そして口から零れてしまった本音。誰にも聞かれていないだろうととても小さな声で。普段はこんなこと思っても口にしない。ましてやいくら小さな声だとは言え、公共の場でこんなことを…しかしそうは言っても会いたいことは会いたかったの


「青峰くん、ですか…?」


窓の外を見つめたままの僕は一瞬何が起きたのか分からず、固まってしまった。だけどウィンドーに反射して見える自分の顔を見つめるとなんとも目を大きく見開き驚きを隠せないようである自分自身の顔と少し視点をずらすと、見たことのある水色の髪をした少年が、何かを啜りながら僕の方を見ていることにも気がついた。


「ーーーーーっ!!!??」


ガタンッ、と音を立てて、声にならない声をあげて僕は目の前にいる少年を見つめたまま椅子から飛び上がり立ち上がった。なんとも腰の抜けるようなこの状況を冷静に整理するまで時間がかかった。


「スッ、スミマセン…!!ぼぼぼぼぼ僕黒子さんが来たの知らなくて!スミマセンスミマセン!」

「いえ、慣れてますから。それに何かの縁でこうして二人になれたのかもしれません。何かお話でもしませんか?」


(彼に僕が先に来て座っていたことを伝えるとさらに謝られて少し面倒なことになりそうなのでそのことは触れないでおいておこう。)そう思った黒子はその点には触れず、立ち上がったまま謝り続ける桜井をもう一度席へ座るようにと促した。


「…」

「…ズーッ」


二人は桐皇学園と誠凛高校というバスケに関してどちらも強豪と言われるライバル校であるため、試合以外では顔を合わせることがないためお互い気まずそうなまま沈黙が流れる。そして桜井は顔にこそ出さないが頭の中では猛烈に反省中であった。それもそのはず、さっきのあの独り言を確実に黒子に聞かれてしまったからである。誰もいないと思っていた前の席にまさか人が、それに青峰と元チームメイトであり相棒であった黒子がいるなんて夢にも思わず漏らしてしまった独り言であったからだ。しかも"青峰"と名だしは一切していないのに直球で"青峰"のことであるとバレてしまったからである。頭をフルに稼働させてこの状況を何とか乗り切ろうとしている桜井に黒子が話しかけた。


「桜井くん、でよろしかったですよね?」

「え、あ、ハイ!桜井良デス…」

「キミもバニラシェイク、ですか?」

「えっ?あ、コレですか、そうです。バニラシェイクです」

「好きなんですか?ここのバニラシェイク。」

「ハイ、好きです」

「奇遇ですね。僕も好きなんです、ここのバニラシェイク。」


何を話しかけてくると思いきや大好きだと言うバニラシェイクの話だった。しかも相当好きなのか、とても嬉しそうに普段はポーカーフェースの黒子が満面の笑みを僕に向けている。と思うと同時に警戒心や緊張感が不思議と解れた気がした。

なんだ…黒子さんてこんなにも自然な笑顔を見せてくれる人なんだ…それになんだか話も合いそうだなあ。


「よく来るんですか?マジバ」

「はい。よく来てます。…いつもは火神くんも一緒なんですけどね」

「火神って…誠凛のエースの?」

「はい。ここだけの話、桜井くんにだけ言えるんですけど僕と火神くん付き合ってるんです」


普通の人なら驚くであろうこの黒子さんの次なる爆弾発言だけど、さすがに聞いた瞬間は驚いたが目の前の幸せそうな黒子さんを見た僕は話が合いそうだと思った根拠のない直感の意味を知ることができた。


「だからあんなコンビプレーもみせられるんですね。僕も二人みたいなコンビプレーしてみたい…」

「確かにSGの桜井くんにPFの青峰くんじゃコンビプレーは何とも実現し難いですね…それに桐皇の方針もチームプレーが主体なわけじゃないですしね」

「そうなんですよね…」


黒子さんの正論が突き刺さる。同じチームメイトなんだし、それも同じコートで戦うスタメンの僕と青峰さん。ポジションが違いすぎる青峰さんとコンビプレーをすることはできないことはわかっている。桐皇の方針が個々で点を取ること、それに青峰さんを基盤にゲームメイクを作っているのもわかる。だけど誠凛戦を通して感じた火神さんと黒子さんのお互いを信じているからこそできるコンビプレーに憧れてしまったのも事実で。


「それにしても、今日は何故このマジバに?桐皇と全然方向違いますよね?」

「あ、それは…今日は部活がOFFだったんでここの近くのお店に足を運んだ帰りで…」

「それで青峰くんと一緒にいられなかったことにショックを受けていたんですね」

「…え?あ、え、ええ……」


あれ?なんか違和感なさそうで何か今引っかかったような…


「それで、どうして青峰くんは一緒じゃないんですか?」


…待って。やっぱりどこか引っかかる。でも今の黒子さんの言葉を読み返しても違和感を覚えるような箇所はどこにもない…もしかして黒子さんの言葉が引っかかるんじゃなくて何か大切なことを忘れてる?明日のお弁当のおかず…いや、ちゃんと冷蔵庫にある。じゃあ今日まだ買えてないもの…ううん、そんなこともない。

しかしそんなことを考える前に僕の返事を待っている黒子さんに話さなきゃ。なんで僕と青峰が一緒にいないのか…


「今日は部活ないって予め聞いてたんで学校自体を休んでるんです。連絡したら体調崩したとかそういうことじゃなくて、ただのサボりらしいんですけど…」

「放課後に会いたい、とは言わなかったんですか?」

「イ、イイエッ!そんなワガママ言えないデス…青峰さんも最近はよく練習に来て真剣に取り組んで下さってるみたいなんで休養の邪魔できないと思って…」


(ハァ。なんて健気なんでしょうこの方は。健気というか内気というか怖がり屋というか…休養の邪魔できない、と言いつつも断られることが怖かったり嫌われるのが嫌なんでしょうね…)と黒子は前の席で小さく肩を窄めながらバニラシェイクを啜る桜井を見て思った。



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