未来からお手紙
「…なんでしょう、これは」
ある日、学校へ向かう前に開けたポストの中に僕宛に一通の手紙がありました。送り主は不明、それに僕の家の住所も記載されていないあたりこの封をされている手紙の内容を簡易に確認するわけにはいかない。
「でもこの字…どこかで見たことあるような」
僕の名前を書いた人の字体をどこかで見たことがある。それも、とても身近の人のような気がする。
このままここで悩んでいても遅刻するだけなので取り敢えず手紙を手に取って学校へ向かうことにした。
この手紙は誰が送ったんだろう。でも身近の人ならどうしてわざわざ手紙にしたんだろう、ポストに投函したんだろう。メールでいいのに。電話でいいのに。直接でいいのに。
その手紙が届いたのは、透き通るくらい綺麗な青空がひろがっている僕がとても素直になれそうな、そんな日でした。
ー「ねえ、本当に出したの?」
「出しましたよ。」
「届いたかな?」
「届くといいですね。彼の心にも」
次に手紙の存在を思い出したのは、放課後の練習が始まる前のSHR後の時間でした。本当なら今すぐにこの教室を出なくてはならないのに。僕は手紙を読みはじめた。
「おい黒子、部活は?」
「行きますよ。…ただ、少し待ってください」
恐る恐る手紙の封を切る。そして中を除くと一枚の薄っぺらい紙が入っていました。その紙を封筒から引き抜いて文面を確認した僕は驚いた。
"素直になりましょう。
相手に言わなければ伝わらないこともたくさんあることくらい分かっているでしょう。
離れてしまっては遅いのです。
気持ちが冷めては、存在がなくなってしまって気付いてからは遅いのです。"
「なに、これ…」
「あ?」
素直に、なんて…僕が一体何に…?
その時、風が吹いてカーテンが僕を包んだ。そして窓の外の景色から彼の声が聞こえた気がしたんだ。
「黒子っち!好きっス!!」
どうしてだろう。本当にどうしてこの綺麗すぎる空の青はこんなにも僕を素直にさせようとするんだろう。あり得ないほど、辛いほど気持ちが溢れて止まらない。僕だって、僕だって…
「好きです、大好きです。…黄瀬くん」
聞こえますか、黄瀬くん。僕、今キミにはじめて告白したんですよ。いつもは引き離してばかりですが本当は僕だってキミにこうしていつも伝えたい。僕がキミをこんなにも好きだという事実を僕自身が認めてこうして言葉にするなんて可笑しいでしょう?
ー「…だそうですよ、涼太くん」
「あはは、懐かしいなー。テツヤっちの黄瀬くん呼び」
「ちゃんと聞こえてますよ、過去のボク」
「可笑しくなんてないよ、黒子っち。君が俺にする告白は何よりの宝物だもん」
「…大好きです、涼太くん」
「…うん。」
離れている黄瀬くんも、この大きな空を見て僕のことを思い出してくれているだろうか。僕の気持ち、届いたでしょうか。
次この空を見上げる時は、黄瀬くんと一緒にいたい。僕が、精一杯素直になれるように。躊躇わずに黄瀬くんに好きです、と伝えられるように…
「すみません火神くん、行きましょうか」
「おう」
僕は手紙を持たずに教室から出た。きっとまだ傍にいるであろう未来の僕へ返事を書く為に。
"僕は黄瀬くんが大好きです。
これからも黄瀬くんとずっと一緒にいたい。
今頑張れば、未来でも黄瀬くんの隣にいられると信じて。"
便箋には、同じ文字で返事が書かれていた。
未来の黒子テツヤ、そして現在の黒子テツヤ。彼らは時空を超えても黄瀬涼太を思い続けていた。
「涼太くん、お返事来ましたよ」
「たしかあの後俺、テツヤっちに会いに行った気がする」
「キミは会いに来ましたよ。走って、僕の元へ」
「未来って絶対なんスかね…」
「涼太くんといられる未来なら僕はそれだけで幸せですから…て、あれ?もう一通僕宛に…」
「ん?どうしたんスか?」
「いえ、なんでもありません」
また僕に、未来からお手紙が届きました。
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