クリスマスとお正月

12月29日。街は既に新しい年を迎える準備を整えている。あとは、年が明けるのを待つだけのようだ。

今日の部活終わり、僕は青峰さんとだんだんとお正月ムードに染まりつつある街を歩いていた。吐き出す息は白く、指も悴んで感覚が殆どない。それでも街行く人はどこか忙しそうで、僕はそんな忙しない街をボーッと眺めながら青峰さんの隣に並んでいた。


「…なあ、良」

「は、はいッ」

「クリスマスって、何日前だっけ」


突然の問いに瞬間に固まってしまったけど、今日の29から日を遡って、28.27.26.25…


「四日前、ですかね?」

「四日て…まだ一週間経ってねえじゃねえか…」


未だに青峰さんの考えていることが分からず、脳内が「??」な僕。しかし青峰さんはどことなく納得いかないように眉をひそめている。

本当に、どうしたのだろう?


「青峰さん…?」

「だっておかしいだろ!クリスマスからまだ四日しか経ってねえのに、何でもう正月気分なんだよ!」


何を悩んでいたのかと思えば。彼はどうやらクリスマスから四日しか経っていないのにもうお正月に入ることが何故か許せないらしい。そんなこと考えもしていなかった僕は、未だに頭を抱えてブツブツと何かを言っている青峰さんにかける言葉が思いつかずに、間抜けツラのように口をあけて心配して彼に触れようとしていた手の行き場を失ったままの状態で固まってしまった。

すると、そんな僕たちなんて知りもしない奥様らしき人が知り合いを見つけて「あらこんばんは。こないだは助かったわ。そういえば…」なんて世間話を話し始めたかと思えば、あらぬワードを口にしたのだ。


「今年も色々とありがとね。来年も、よろしくお願いしますね。」

「こちらこそ、来年もよろしくお願いします。…よいお年をお迎えください」


深々とお辞儀をして、二人は別れた。その様子を見ていたのはどうやら僕だけではなくて、青峰さんも凝視していたようだった。
すると彼はまた混乱しているような瞳を僕に向けて言ったのだ。


「よいお年を…?おい良、メリークリスマスはどこいったんだよ。サンタサンタって喜んでるガキは?もういくつ寝たら正月だ!って喜んでんのか…?ケーキ売ってる姉ちゃんは?クリスマスツリーは?」

「え、えと、青峰さん落ちついてください…っ!」


こうなってしまってはもう僕だけで彼の頭を整理することは難しい。
まだ、今吉先輩や桃井さんが一緒ならなんとかしてくれたかもしれないけど…どうしたらいい?クリスマスからお正月に向かう経緯とかから説明しないといけないのかな…?


「なんでクリスマスと正月の間がねえんだよ…」

「な、なんでですかね…言われれば気になってきますね…」

「なんか可哀想じゃね?クリスマスが近いとクリスマスプレゼント楽しみにしてるガキが、今度クリスマスが終わると金を楽しみにすっかりクリスマスなんて忘れんじゃねえか…」

「あ、青峰さん、金ではなくてお年玉です…」


まるで純粋な子供達が金欲にまみれたような言い方をしたから、金からお年玉に訂正した。だけどまあ、クリスマスも可哀想だけど、お年玉を貰い終わってまた学校が始まってしまえば、お正月も忘れられて、同じ様なものだろう。


「青峰さんは、そんなにクリスマスが好きですか?」

「まあな。だって街中サンタの格好したミニスカの姉ちゃんはいるし、美味いもん食えるしケーキだって。それに寝てりゃあ好きなもん貰えんだぜ?」

「サンタさんは、イイコにしてる子のところにしか来ませんよっ」

「うるせーな。んなことサンタ気にしてねえよ」


好きである理由が、大分真っ黒だ。それでも青峰さんらしいと思った僕は笑った。それを見て、青峰さんも笑った。


「来年のサンタは、良がミニスカ履いて来てくれると良いなー」

「そ、そんなことしません…!」

「俺イイコで待ってよっかなー」

「…な。で、でもそんな恥ずかしいこと…っ」

「はぁ?恥ずかしいとか今更じゃねーか。」

「…!!」


ここが外で、人がまだいる街で、見られているかもしれないということを彼は忘れてしまっているのだろうか。
サンタのミニスカなんて…と想像して恥ずかしいと顔を赤くしている僕に、青峰さんは上からキスを落とした。


「〜〜〜っ!?こっ、ここがどこだか…!」

「わーってるよ。別にいいだろ、どこでキスしたって。」

「で、でも!」

「はいはい。ほら、そんな大げさに反応するから周りの奴らが見てくるんだろーが」


確かに、顔を真っ赤にして大きな反応をみせている僕に視線が集まっている。…だけど、それは本当に僕の所為?あんな簡単に触れるだけのキスだけど、ほんの一緒の出来事だったけど、そこを見られてたからとかじゃなくて?


「そんなに俺とのキスが嫌か?」

「ちっ、違うんです…だって、その…」


僕たちは男同士だから。
いつもそんな世間体が邪魔をする。大抵の男女カップルなんて、何処でも構わず堂々としたいときにキスしている。羨ましくないと思っていないわけでは無い。ただ…

口籠ってその後がなかなか言えない。僕の続きの言葉を待っているであろう青峰さん。だけど、きっと彼は分かっているはずだ。何を伝えたいのか。


「まあいいや。要は、二人っきりの時でならいくらでもしていいんだろ?」

「へっ?あ…は、ハイ…それなら………」

「じゃーそん時はさつきにミニスカ借りるか。女装プレイなんつーのも悪くねえだろ」

「ひぇ…!!青峰さんそんなこと大声で…!!!それに、桃井さんに借りて汚してしまったらなんて言えばいいんですか…!」


恥ずかしくて、また一段と顔を赤くする僕の反応を見て楽しそうに笑う青峰さんは意地悪だ。


「腹減ったなー、なあ、良」

「そうですね。家帰ってご飯食べてお風呂入って、あとは寝るだけですね」

「良のオムライス食いてえ」

「こないだクリスマスに食べたばっかりじゃないですか。」

「そーだっけ?…じゃあ、今度正月食わせろ」

「えぇ?お正月にオムライスですか?」

「いーじゃねえか。ヘタなおせちより断然うめえよ」

「ふふっ、わかりました。じゃあお正月ですね」


お正月にオムライスとは何ともミスマッチな組み合わせだと苦笑いしてしまうが、おせちよりも美味しい。と言ってもらえたことが嬉しくて、心から笑ってしまう。
そういえばクリスマスも、美味い美味いって二皿食べちゃったんだっけ…あの時は、嬉しかったなあ。


「来年も、良と一緒にいられんのか。」

「そう、ですね。」

「今年も、まだ一緒だ。」

「はい。」

「このまま一緒に年取るか!」

「ふふっ、はい。」

「再来年も、五年後も。三十年後も。」

「はい。ずっと一緒です。毎お正月にオムライス一つです。」

「おう。言うじゃねえか、良」

「青峰さんこそ」


そう言って笑う良の顔は恥ずかしいからか、それとも寒いからなのか、頬も鼻先も顔全体が赤く染まっていた。すげえキスしたかったけど、良の困る顔は見たくない。

クリスマスも、正月もずっと良といる。つーかイベントなんかなくてもずっと。


「僕、幸せです……」

「ばーか。」


そう言って僕の頭を撫でた青峰さんの手は大きかった。


本当に、幸せですよ。
俺もだよ、良。



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ああああああああ…っ!
二人が幸せなら私はもっと幸せだあ…!!





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